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脳の仕組みを解明する上で、神経細胞どうしのコミュニケーションがいつ、どこで、どのように起こっているかを調べることは非常に重要です。そのためには細胞どうしの電気的・化学的なやりとりを観察する必要がありますが、これまでおこなわれていた電極を脳に差し込む方法や薬剤を注射器で注入する方法では脳細胞を傷つけるだけではなく、感染症の原因になるなど多くの問題を抱えていました。
今回紹介する研究では、マウスの脳のなかに「実験室」を作るという画期的なアイデアでこれらの問題を解決しました。実験室には生体に害のない材料が使われており、わずか3 mmの部屋の大きさは最新の微細加工技術を用いることで実現されました。部屋には観察用の直径2 mmの窓と、薬剤を注入・排出するための穴が空いており、一度取り付けるとマウスに与える負担を必要最低限に抑えて実験をおこなうことができます。取り付け手術の際にも酵素を用いて骨を軟化させるなどの工夫をおこなうことで、実験室の設置後53日以上もの長期間にわたって神経細胞の薬剤応答や形態変化を観測することに成功しました。特にシナプスと呼ばれる神経細胞間の構造においては、継続的な刺激応答変化を世界ではじめて観察することができました。これらの成果は学習や記憶のプロセスの解明につながるだけではなく、統合失調症や躁うつ病など脳の機能不全疾患の治療研究につながる可能性も秘めており、ますますの調査が期待されています。


イメージ
UTokyo Researchより引用
http://www.u-tokyo.ac.jp/utokyo-research/wp-content/uploads/2014/10/20141031_RI_t_fig1.png

タイトル
マウス頭部に小さな実験室を作る「ラボ・オン・ブレイン」を開発

発表概要
東京大学大学院工学系研究科の一木隆範准教授らと同医学系研究科の河西春郎教授らの研究グループは、マウスの頭部上に搭載する小さな実験室「ラボ・オン・ブレイン」を世界で初めて開発し、生きているマウスの神経細胞の活動を53日間に亘り観察することに成功しました。昨今の研究トレンドである省エネルギー・省物質の「ラボ・オン・チップ」の、生体への応用を実現しました。
脳機能や脳疾患を解明するには、生きた脳で神経細胞を調べる必要があります。しかし、脳内へ直接試薬を投与するなどの実験操作を不用意に加えると、脳は容易に損傷して本来の機能が失われる可能性があります。そのため、本研究グループは、生きている脳の観察を強力に支援し、脳と外界を仲介するインターフェイス機能を備えたマイクロオプト流体デバイスを開発しました。
本デバイスは観察用ガラス窓や髪の毛程度の細い試薬用流路を備えています。このデバイスと2光子レーザー顕微鏡を用いることで、脳機能に密接に関わる神経細胞の棘状突起構造「スパインシナプス」のわずかな構造変化を、1カ月以上、継続して観察できました。さらに、脳組織へ光解離性試薬を注入しながら、レーザー光でこの試薬を分解してシナプス可塑性刺激を繰り返し与えたところ、シナプス強度の指標となるスパインの形態の変化を任意のスパインシナプスに生じさせることに成功し、さらにその変化が数日以上持続することを世界で初めて確認しました。
このデバイスの実現に用いられた技術は、記憶・学習などの脳機能の解明や、統合失調症・躁うつ病など、脳の機能不全疾患の治療研究への応用が期待されます。

URL
UTokyo Research「マウス頭部に小さな実験室を作る「ラボ・オン・ブレイン」を開発」
http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/utokyo-research/research-news/lab-on-a-brain-miniaturized-laboratory-on-a-mouses-head/