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生き物の中では常に無数の化学反応が複雑に組み合わさって起こっており、多くの化学物質がお互いに関わりあいながら合成と分解を繰り返しています。生き物を構成する化学物質は遺伝子情報を持つ「ゲノム」、たんぱく質情報を持つ「プロテオーム」、代謝物質情報を持つ「メタボローム」といった風に、その役割によって「オミクス」と呼ばれるグループに分類されています。
生き物の仕組みを理解し、疾患や薬理のメカニズムを把握するためには、オミクス内とオミクス間の両者にまたがる複雑な化学物質のネットワークを包括的に明らかにする必要がありますが、いままでの多くの研究ではオミクス内に限った部分的な解明に留まっていました。

今回紹介する研究では、従来の分子生物学的手法に情報科学の解析を加えることで、二つのオミクスにまたがるネットワークの網羅的理解に世界で初めて成功しました。糖代謝に深く関わるたんぱく質インスリンをラットの肝臓癌細胞に1時間投与し続け、その間のメタボロームとプロテオームの変化を網羅的に記録、そこで得た「ビッグデータ」を特殊な手法で再構築することでインスリン作用に関するメタボロームとプロテオーム間のネットワークの全貌を明らかにしました。これによりいままで知られていなかった多数の化学反応経路が明らかになり、インスリンが作用する物質ネットワークのより深い理解が可能になりました。
この技術は疾患ごとのメカニズムの解明や創薬プロセスの効率化など様々な可能性を秘めており、今後一層の開発が続けられるそうです。

イメージ
UTokyo Researchより引用
http://www.u-tokyo.ac.jp/utokyo-research/wp-content/uploads/2014/08/20140813_RI_s_fig1.jpg

タイトル
インスリン作用の細胞内ビッグデータから大規模代謝制御地図を自動的に描く方法論を確立

発表概要
細胞は、DNA、RNA、タンパク質、代謝物質といった物性の異なる分子群から構成されており、物性がよく似た分子同士を集めたグループを「オミクス階層(注1)」と呼びます。細胞が示す多彩な生命機能は、複数のオミクス階層にまたがるネットワークによって実現されています。しかし、異なるオミクス階層の間をつなぐ大規模なネットワークはこれまでほとんど明らかになっていませんでした。
東京大学大学院理学系研究科の柚木克之助教と久保田浩行特任准教授、黒田真也教授は、慶應義塾大学の曽我朋義教授、池田和貴特任助教、九州大学の中山敬一教授、松本雅記准教授、大阪大学の三木裕明教授、船戸洋佑助教らとの共同研究により、タンパク質リン酸化と代謝物質の2つのオミクス階層にまたがるネットワークを網羅的に再構築する方法論「トランスオミクス解析」を世界に先駆けて確立しました。タンパク質リン酸化と代謝物質のビッグデータは血糖値の調節に関与しているインスリンをラットの肝細胞に投与して取得しました。このビッグデータに本手法を適用して、インスリンが作用する分子のネットワーク(インスリン代謝制御ネットワーク)の全貌を初めて明らかにしました。従来は部分的な知見に基づいて推測するしかなかったインスリン代謝制御ネットワークの理解をいっそう深める成果です。
今回明らかとなったインスリン代謝制御ネットワークを細かく解析することにより、血糖値の新規な調節メカニズムが解明できる可能性があります。実際、研究チームは肝臓のみで機能する血糖値の調節に重要な経路を発見しました。また、「トランスオミクス解析」はインスリン以外にも、幅広い生命機能の背後にある多階層にまたがる分子ネットワークの解明に応用できます。ネットワークの解明は、生命機能や疾患のメカニズムを明らかにするだけでなく、それらの制御にもつながります。生命機能や疾患の制御が可能となれば、将来的には「トランスオミクス解析」を用いて再構築した病態モデルマウスの代謝制御ネットワークが、疾患の検出に役立つバイオマーカーや、薬剤の標的となる分子を探索するうえでの「地図」としての役割を果たすことも期待できます。

URL
UTokyo Research「細胞内のビッグデータから大規模ネットワークの再構築に成功」
http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/utokyo-research/research-news/reconstruction-of-molecular-network-from-cellular-big-data/