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超分子素材と聞いてどのような素材を想像しますか?思わず凄そうな素材を想像してしまいそうですが、これは分子どうしの「分子を超えた」つながりを利用した素材のことで、近年最も注目を集めている分野の1つです。
分子が関わるつながりには大きく2種類あります。1つは「共有結合」 これは原子(モノを砕いていった時の最小単位)どうしが強く手をつないだ結びつきのことで、この集まりを分子と言います。医薬品や合成繊維などはこのつながりを利用して作られています。
もう1つは「超分子結合」 これは分子どうしがプラスとマイナスの静電気的な力で引き付け合うつながりで、共有結合よりは弱いつながりですが上手く制御すれば分子を自在にくっつけることができ、ナノスケール(1ミリの100万分の1)の構造を自由に作り上げることができるようになります。しかしこれまでの研究では、「全部くっつける」と「全部バラバラにする」ことしか実現できておらず、自在に制御するのは程遠いのが現実でした。

今回紹介する研究では、この「自在に制御する」夢を少し実現に近づけました。特殊な性質を持った「く」の字型の分子を設計することで、10個つながってできるリング状の超分子構造とそのリングが複数つながってできるチューブ状の超分子構造とを行き来できるようにしたのです。この機構は電気的にプラスにするかマイナスにするかによって制御され、従来の結果とは違う「部分的な」超分子構造変化を可能にしました。
DNAやタンパク質など、自然界では当たり前だったこの超分子的な切り貼りの現象が人の手で可能になれば、自然にある複雑な分子の働きを解明することや応用することに大きく近づくことになります。また、この研究は電気的な刺激によって構造変化する超分子構造を用いたため、エレクトロニクス産業の分野への応用も期待されています。ナノの世界という非常に小さい世界でのものづくりが可能になれば、私たちの使う様々な電子機器の未来が大きく変わってくるかもしれません。

イメージ
UTokyo Researchより引用
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/epage/release/Illust%20Fukino.png

タイトル
自在に切り貼りできるナノチューブ 電子の出し入れでナノチューブとリング構造を切り替える

発表概要
医薬品のような複雑な有機分子の構築には共有結合(原子同士を結びつけて分子の骨格を形成する強い化学結合)を自在に切り貼りできる技術が必須である。しかし、共有結合とは異なる「分子同士の弱い接着(非共有結合性相互作用)」を利用するナノスケールの構造体(ナノ構造体)の合成では、一旦組み上がった構造体をその部分構造に解体したり、解体された同種・異種の部分構造同士を貼り合わせたりする「ナノスケールの切り貼り」に関する報告例はなかった。それは、ナノ構造の形成に使われている複数の接着様式のうち特定の様式のみを弱めたり、強めたりするという著しく困難な要求を満たす必要があるからである。特別な戦略がなければ、ナノ構造は、それを構成するもっとも小さな単位である分子にまでバラバラに解体してしまう。

今回、東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻の相田卓三教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター 副センター長を兼任)と吹野耕大 学術支援専門職員らは、これまでの常識を覆し、自在に切り貼りできる新しいナノ構造体の開拓に成功した。本研究で開拓されたナノ構造体は特別なナノチューブである。このナノチューブから電子を奪う(酸化する)と、ナノチューブはその構成要素の一つであるリングに切断される。一方、得られたリングに電子を再注入(還元)すると、無数のリングが規則正しく重なりあって自発的にチューブを再構成する。リングは正電荷を帯びており、負電荷を帯びた別の物質の表面に貼り付く性質を有する。

本研究によって示された「ナノスケールの切り貼り」という物質合成の新戦略は、より複雑・高機能なナノ構造体に関する科学技術の進歩と次世代エレクトロニクス分野での応用に大いに貢献すると期待される。

URL
UTokyo Research「自在に切り貼りできるナノチューブ」
http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/utokyo-research/research-news/nanotubes-get-cut-and-pasted/