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「婚活」、皆さんはこの言葉にどんな思いを抱くでしょうか。この記事を読んでいらっしゃる皆さんの中では、合コンなどの「婚活」になれている方も、「婚活?結婚は自然に出会って、好きになった人とするものだよ、無理してするもんじゃない」という方もいらっしゃることと思います(かくいう私は男子校全寮制で純粋培養されていたこともあり、完全な後者、結婚にバリバリ夢を見ている型男子です)。長い間、私の中で、「結婚」はいつかしたいものでしかなかったのですが、恋人がいる友人が「もうこのまま、結婚するんだなぁって最近思う」と言っているのを聞き、結婚が身近なものになっていることに驚いてしまいました。

今回ご紹介するのは、「日本婚活思想史序説」。執筆者の佐藤信先生は、女性学を専門にする、文学部の新進気鋭の論者……ではなく、日頃は政治学を専門にされている先端科学技術研究センターの助教。この書籍は研究の傍、2014年から「週刊東洋経済」に連載したコラムを加筆修正してできたもの。今回の書籍紹介では、この書籍の中のエピソードを通じて本書が主に扱う婚活の歴史やそれが表す時代の流れをご紹介できればと思います。

雑誌「結婚潮流」から考える80年代 〜結婚は恥ずかしい?〜
「結婚したいと考えるのが恥ずかしいみたいな風潮、おかしいと思いません?」

この問いかけは、80年代の結婚系雑誌「結婚潮流」の創刊にあたって、荒谷めぐみ編集長が新聞記事の取材に答えて発した言葉だそうです。2019年の視点から見ると「ん?そんなことあるかな?」とギャップを感じる言葉ですが、当時としては、この風潮が当然の流れだったそうです。この言葉は、当時の結婚に向けての風潮に一石を投じるという「結婚潮流」のコンセプトを象徴すると言えるでしょう。

皆さんは、結婚雑誌というと「ゼクシィ」などの「結婚を楽しもう!」というハッピーなものをイメージするかもしれませんが、「結婚潮流」は、結婚を否認するフェミニズムに対して反対する、いわば「闘う雑誌」ですね。

戦後、お見合い結婚などが否定されていく中で、80年代当時には女性が結婚すること自体が女性の自立という大目標に反するものと位置付けられていました。そのような風潮に反し、自分の好きな人と結婚することそのものはいいことではないか、幸せな結婚を追求しようというのが「結婚潮流」のコンセプトであったとのことです。

この結婚の現実を示し、思想的潮流に対する挑戦状ともなった「結婚潮流」は、当時の女性の心を掴み、創刊号は即完売、最盛期には15万部もの売り上げを達成しました。このブームを通じて、結婚をめぐる議論が俎上に上がり、多くの雑誌で結婚特集が組まれるようになりました。

かつてあった「イエ」制度に縛られた結婚観を脱し、今では当たり前である誰もが好きな人と結婚する、そんな自由恋愛が支配的になる過程には、このような社会を動かすムーブメントがあった・・・そんな事実を知ると、恋愛もまた少し違った視点から見られるかもしれません。

政策と結婚 一人の”結婚”をどう捉えるか
この本の中では、単なる私人間の契約としての結婚だけでなく、結婚をめぐる政策についての議論についても触れています。ここでは、特に興味深かった少子化対策と結婚について、本書の内容を紹介します。

少子化問題の深刻化・対策の難しさは、先ほども記した「恋愛の自由化」に端を発します。戦後の「産めよ殖やせよ」政策に対する反動として、出生問題については、政治も手を出すことができない領域になっていました。21世紀になり、男女共同参画社会という目標へ向けて取り組みながらも、どこかでこのタブー感を拭いきれないままでいました。皆さんも「一億総活躍」「少子化問題は国難」などという安倍政権でのキャッチーなフレーズは頭に残っているのではないでしょうか。こう捉えると、「自由恋愛」という言葉には少し個々人の感情だけでは判断しきれない重みもあるのではないかと思う方もいるかもしれません。

また、筆者は性の多様化の中で結婚の姿も多様化していることを指摘し、この変化がもたらす近代家族制度の変化についても言及しています。家族、夫婦を前提として成り立っている配偶者控除などの諸制度が見直しの時期を迎える中で、近代家族という一種のイデオロギーを帯びた考え方が危機に瀕し、法律婚という考え方も大きな変化を迫られることになります。結婚という現象の変化が示す社会の変化が、国家と国民の関係性にも大きい影響を与えているということを指摘している本書を読み、昨今のニュースを見る視点がまた増えたような気がしました。

意外なメガネで社会を見ると……
ここまで、2つのエピソードを通じて、この本の視点、特徴などについて記してきました。

また、この本を通じて目を引くのは、業界初の「副音声システム」。紅白歌合戦でも副音声システムが流行りになって、早数年が経ちますが、この本では、メイン番組である本文に対応する形で下段・副音声で編集の方と作者の佐藤さんが少し砕けたトークを展開しています。彼らの実体験に基づくエピソードを読むことで、より重層的に婚活の歴史がイメージできることでしょう。

「婚活」、これまで考えもしなかった視点から戦後史、今の社会を読み解いていくと、歴史や公民の教科書には書いてなかった、新しい社会を見つけることができるかもしれません。


佐藤信『日本婚活思想史序説:戦後日本の「幸せになりたい」
(東洋経済新報社)
2019/05