東京大学公式の情報サイト「東大ナビ(UTokyo navi)」は、本学の部局や研究所が開催する多彩なイベントの情報を集約し発信しています。


みなさん夏休みいかがお過ごしでしょうか?実家に帰ってゆったりとした時間を過ごしたり、花火大会に行ったり、その他にも様々な思い出ができたのではないでしょうか。一方で「友人から旅行に誘われたけど帰省をしていたから、予定を断ってしまった……」、「行きたかったライブに応募したけど抽選に外れてしまった・・」など、『身体的』もしくは『空間的』な制約によって残念な思いをした人もいるのではないでしょうか。実は最近、そんな悩みを解決する新しい技術として『仮想現実(VR)』が注目されているんです!かく言う私も昨年の夏にVRデバイスを購入し、ゲームや映画鑑賞など、娯楽の面で大いに利用しています(笑)このように日常生活にも入り込んできているVRですが、あまり知らない人も多いのではないでしょうか?

そこで今回は東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター廣瀬通考教授が監修した『トコトンやさしい VRの本』という書籍を紹介したいと思います。この書籍では、VRの定義や人間の感覚などについて幅広く書かれています。この記事では、VRの基礎からその将来性について、どのようなことが書かれているのかを紹介します。

VRで何ができる?

まず初めにVRを使うことで具体的に何ができるのか紹介したいと思います。
この書籍によると、現在VRの活躍が最も期待されているのは『遠隔存在』と呼ばれる分野だそうです。遠隔存在とはVRと遠隔操作ロボットを組み合わせることで、ユーザーが離れた場所でも存在することを可能にするというものです。特殊な装置が必要ですが、ユーザーはロボットの視覚や聴覚だけでなく触れたものの硬さや温度なども伝えられるようになりつつあります。例えば自分がその場にいなくとも、友人に小型ロボットを持たせることで旅行について行ったりすることができるようになります。

また遠隔存在は娯楽だけではなく、人びとが住んでいる国や地域に縛られることが無くなるという点でも大きな意義があります。この技術によりユーザーは遠隔医療や遠隔教育、遠隔就労などの機会を得ることができるようになるのです。例えばALSなどによって身体が不自由な人が、分身ロボットを通じてカフェを経営するなどの社会実験がおこなわれていたりします。すなわちVRを使うことで、人間の身体的な機能の制約を解放することができるようになるんです!

VRの仕組み

それでは『VR』とはどのような技術なのでしょうか?書籍によると、VRとは『バーチャルリアリティー』の略称で、そのシステムは『ディスプレイシステム』『入力システム』『シミュレーションシステム』によって構成されているそうです。
例えばあなたが仮想世界でガラスのコップをもっていた時に手を離すとどうなるか考えてみましょう。まず現実世界でコップを離す行為をすると『入力システム』によって、仮想世界でも同じ行為が実行されます。次に『シミュレーションシステム』によって仮想現実の中でガラスがどのように動くのか予測されます。最後に『ディスプレイシステム』によって「仮想世界でガラスが壊れる」という現象がデバイスを通じてユーザーに表示されます。これらのシステムが円滑に循環することで、ユーザーは仮想世界への没入感を感じることができるようになるんです。

VRのらしさの測り方

またVRのシステムを客観的に評価する指標として『AIPキューブ』という考え方があります。それぞれAは『自立性(Autonomy)』、Iは『対話性(interaction)』Pは『臨場感(presence)』という意味です。もしも完全に自立性・対話性・臨場感を満たしたVRの場合、全ての値が1になります。
例えばプラネタリウムは、実際の空と同じように星を映し出すのでPの臨場感が高くなります。一方で映し出される星は見ている人の動きによって変化しないのでAやIの値は低くなります。
このようにAIPキューブを使って考えることで私たちが普段目にしている技術が『いかにVR的であるか』ということを議論できるようになるんです!

社会におけるバーチャル化の意味

ここまでVRの基礎やその応用について解説してきましたが、VRの魅力は「本物そっくり」の状況をデジタルで作り出せることでしょう。一方で本物っぽいものを表現するだけであれば、お金をかけてVRを開発するよりも本物を体験した方がいいのではないでしょうか?この問いに対して著者は「VRが本質的意義を得ることができるのは、『VRでしかできない』ことを発見した時だけだ」という結論を出しています。

特に筆者が注目しているのは『高齢者クラウド』と呼ばれるプロジェクトです。このプロジェクトは、働きたいけれど身体的な制約の多い高齢者の能力を複数人で補完しあうことで新たな労働力を生み出そうというものです。このように能力を分割して抽出するという行為は現実世界では不可能であり、このような『バーチャル化』こそがVRの意義の矛盾を解消してくれるのではないだろうか、というのが筆者の考えです。すなわちVRの技術によって今までに存在しなかった『新しい現実』を作ることが可能になるということです。

VRが生み出す新しい現実

ここまでVRの定義やその応用、将来性について紹介しましたが、いかがだったでしょうか。
近年ではVRデバイスも一般の人たちの手に届くほどに安くなり、ゲームや動画鑑賞などの面ではVRの価値が認められるようになりました。一方でVRを単なる『娯楽』に留めないためには、『教育』『産業』『芸術』などといった既存の分野に応用していくことが、新たな可能性つまり『新しい現実』を生み出すカギになるのではないでしょうか?
あなたならVRでどんな新しい現実を作ってみたいですか??

廣瀬通孝・監修、 東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター・編集『トコトンやさしいVRの本』(日刊工業新聞社)
2019/02