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『バカ』ってなんだ??

突然ですが、「バカ」ってなんでしょうか?どんな人を指していると思いますか?きっと「勉強ができない」「(一見すると)要領が悪い」「見当違いなことをしている」と想像した人が多いのではないでしょうか。

しかしこの本の著者の東京大学大学院情報理工学系研究科の生田幸士教授は次のように言っています。

「もっと豊かで、強く、そのくせ笑えて、迷惑で、かと思うと胸が熱くなるような、あるもの。すなわち『バカ』とはある生き方なのです。」

そしてそのような『バカ』は個人の中に留まらず、世界初をなし遂げて人々に新しい世界を見せてくれるそうです。どうでしょう、少しは『バカ』の生き方に興味が湧いてきませんか?しかも『バカ』は個人の能力の質にも左右されないと生田教授は述べています。では一体どんな生き方をすれば良いのでしょうか?本書から少しだけ紹介したいと思います。

「慣れ」によってアイデアは拘束される??

先ほど書いたように新しいアイデアや奇想天外な発想は『誰も思いついていない事象』もしくは『人々が見聞きしていても気が付かなかった未知の関係性』から生まれてきます。つまり自由な発想が必要不可欠になるんですが、なかなか日々の生活では簡単に閃きは生まれてきませんよね。これはどうしてでしょうか??生田教授はこれを『集団に属することによる束縛』として説明をしています。

誰でも周りの仕事のパターンに染まってしまいがちなもので、例えば会社に入ってしまえば思考や行動のパターンまでコピーしてしまうことは少なくありません。学生でも学部や学科、研究室の独特な雰囲気に最初は違和感を持っていても、数か月経過すると何も感じなくなったという人は多いのではないでしょうか。すなわち学ぶにしても働くにしても、知らず知らずのうちに思考が集団の圧力によって拘束されるのです。そのため議論をしても似たり寄ったりのアイデアしか出てこなかったり、研究の分野であれば面白いテーマが出てこなくなったりしてしまうのです。

こうやって『バカ』になってみる! いつもの場所から離れてみよう!

では拘束されないためにはどうすればいいのでしょうか?生田教授は3Mという企業を例に出して説明をしています。この3Mには『自分の本業以外に何割か自由な時間とお金を使ってよい』というシステムがあり、社員たちはスポーツをしてみたり他国の3M社員とプロジェクトを立ち上げたりしています。このシステムによって生まれた商品がポストイットで、剥がれやすい開発途中のノリを例のフリーの時間に他部局の人に話したところ「張って剥がせる付箋って便利じゃない?」ということになり、ポストイットが生まれたそうです。つまり本来の集団の役割から解放されて余裕をもった状態で、自由な発想を生み出しやすい『遊び』にチャレンジする環境を積極的に作るのが大切なんです!

しかし自由な時間を確保するシステムを実際に職場や授業にそのまま導入することは難しいかもしれません。でも「そういえば、ここのところ生物系に進んだ○○君と話していないな?彼と久々に会って話を聞いてみようかな!」とか「最近、学科(or同じクラス)の人としか話していないな。留学生が集まるランチョンセミナーに参加してみようかな」など外に興味を向けようとするほんの少しの努力で状況は変えられるのではないでしょうか?

『バカ』になるための留学?

また生田教授は大学生に積極的に海外に留学することを勧めています。皆さんの中にも留学に興味をもっている人は多いのではないでしょうか。留学にもいろいろな種類がありますが、生田教授が留学を強く勧めるのは『語学習得やコンテンツ・研究のためではなく、自分の目で世界を目の当たりにしたり、自分で痛い目にあったりすることが大切だ』という理由からです。すなわち海外で生活していく中で人として鍛えられて成長し、誰とでもやり合えるような自信や経験を持つことが出来るようになるというわけです。

他にも生田教授はいくつか留学にまつわる話を本書に載せています。私がドキッとしたのはノーベル賞を受賞した利根川先生の講演会でのエピソードです。この講演会で学生が「東大には最先端の研究や設備があるから留学は必要ない」と発言したのですが、これに対する利根川先生の発言がかなり印象的でした。

私がこの場面を読んだとき、本当に耳が痛かったです。自分が英語が苦手であることを肯定するかのように『留学は金銭的に余裕があり、帰国子女や語学を学びたい人が行くもの』『自分の行きたい研究室はトップレベルだから留学は博士号とってから考えよう』などと言い訳を連ねていたのが一気に明るみに出てしまった気がしたからです。興味がある方はこの場面を読んでみて、留学の意味を改めて考えてみてはどうでしょうか?

さいごに〜バカへのすすめ〜

このように本書では『バカ』の生き方や、それにまつわるエピソードがふんだんに取り入れられています。現代社会における激しい変化に対応するためには、決められた作業を高速に処理するだけでなく、様々な変化に瞬時に対応できる『バカ』を社会全体として〈受け入れ・増やす〉環境を作る必要があるのかもしれませんね。

また「この生き方はちょっと向いていないな」と思った人も、この本を読み進めるうちに歴代の『バカ』の生き方に愛着が湧いてくること間違いなしです!令和という新しい時代がスタートする五月から自身の生き方を見直してみてはいかがでしょうか!


生田幸士『世界初は「バカ」がつくる! ―「バカ」の育ち方あります!』(さくら舎)
2019/02