東京大学公式の情報サイト「東大ナビ(UTokyo navi)」は、本学の部局や研究所が開催する多彩なイベントの情報を集約し発信しています。


Summary

  • 幅広い分野で活躍できる「逆三角形人材」

  • チャンスを活かせるような日頃の心がけ

  • 複数の肩書きを持てる生き方を


東大生のためのキャリア教育

「東大合格が人生のピークでした」、皆さんはこの言葉をどこかで耳にしたことはないでしょうか。私は、つい最近、とある記事で目にしました。昨今、東大生という世間から見れば最強のキャリアパスを持つかもしれない学生もその先のキャリアに悩み、不幸なことに失敗してしまう、そんな東大生の取り上げられ方が増えています。複雑で不確実性の高い世の中を生きていく東大生に将来のキャリアの道筋を決めるヒント、選択肢を与えてくれる、そんな授業が「教養学部生のためのキャリア教室:これからの時代をどう生きるか」です。そして、2015年〜2017年に開講されたこの授業で講義した各界の”先輩“のうち、13名のキャリアを紹介するのが本書です。とても経験豊富な13名の講義をまとめた本書を読むと、普通の大学生活では得られないキャリアの多様なあり方が見えてくるでしょう。
この記事では、そんな本書の中から、私自身が気になった”先輩”のものの見方、考え方を紹介したいと思います。

逆三角形人材のススメ:「中間領域の知識」の必要性

皆さんは「T形人材」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、知識の幅が広く(T字の上の「一」がこれにあたります)、かつ自らの専門分野について深い知見を有している(T字の「|」がこれにあたります)人材を表す言葉で、多くの場面で理想に近い人材のあり方として語られています。そんな中で、東京大学理学部物理学科卒業で、現在はつくば市にある産業技術総合研究所で研究員を務める安藤康伸さんは「逆三角形人材」の必要性を説きます。具体的には、T形人材が有する従来の教養と呼ばれるような幅広い知識、ひとつの分野に関する専門性に加えて、両者をつなぐような中間領域の知識の必要性を持った人材を理想としています。そして、安藤さんは専門だけに詳しい専門馬鹿ではなく、境界領域を広く有する人が、これからの時代において、幅広い分野で活躍できるだけでなく、人生を豊かに生きることができるとしています。実際、安藤さんも研究者でありながら、有名警察ドラマ「科捜研の女」の台本作成の支援を行ったり、タンザニアでIT技術を用いて識字率の向上や社会全体への貢献を行うNPO団体の理事を務めるなど多様なキャリアで活躍しています。このような活躍も安藤さんが専門の物理だけではなく、化学、コンピューターなどの多くの分野において中間領域の知識を有しているが故といえるでしょう。

私自身も今年度から本郷キャンパスに移り、本格的に専門科目の授業が始まっています。その中でも、駒場での教養教育で身につけた幅広い分野の知識やものの見方を活用できれば、専門科目の学びやその先のキャリアなどにも活きてくるのではないかと感じました。

「選択と偶然」

続いて紹介するのは、金子広明さんのものの見方です。金子さんは、東京大学工学部建築学科を卒業後、建築事務所での経験を経て、現在は金子広明建築計画事務所の社長を務めています。金子さんは、自らの経験から、人生において重要な悩み、考え事をいくつかの「悩みのキーワード」にまとめて紹介しています。ここで全てを紹介できませんが、その全てが私の今、迷いや考えとマッチしており、読みながらうんうんとうなづいてばかりでした。ここでは、そのうちの一つ「選択と偶然」を紹介します。

金子さんは大学卒業にあたり、いくつかの大手の組織設計会社で就職活動を行いましたが、芳しい結果を得られませんでした。しかしその後、働くイメージを高めるために行った設計事務所のインターンで社長と馬が合い、そのまま就職することになりました。この経験を踏まえ金子さんは、就職活動以降の社会の環境とは不明瞭で不確実な要素が増し、自分だけではコントロールできないことが増えると話します。「選択と偶然」は、自分の将来の道や次のアプローチを選択するだけではなく、偶然の変化を見越し、そのような偶然に備えて、そのチャンスを確実につかめるように備えておく、この重要性を強調している言葉と言えるでしょう。

人の数だけ、キャリアがある

本の最後には、授業を担当していた標葉先生を中心とする3人の先生が、授業で伝えたかった内容について意見を交わした座談会の様子が収録されています。その中では、これからの時代について、ひとつの肩書きで生きていくことの危うさが強調されています。これは、あえて違うルールの環境に複数所属すると、自分とは全く異なる人との対峙につながり、違うルールのコミュニティーに複数所属することが狭いムラ社会的な価値観やそこから生まれる不寛容さにとらわれることなく生きていくことにつながるからだそうです。変化の激しい社会において、ひとつの立場に固執せず、自分だけのキャリアを自分の手で縦横無尽に作り上げていくことが望ましいと言えるのかもしれません。

普段の生活の中では、先のキャリアを見据えるのは難しいかもしれません。しかし、東大生にもキャリアプランやそのためのアプローチの必要性が叫ばれる今日この頃、この本を通じて、キャリアの具体像、今からできることを考えてみるのはいかがでしょうか。
新生活スタートから2週間が過ぎた中、新年度の読書のスタートにぜひ一度、本書をお手にとってみてください。


標葉靖子・岡本佳子・中村 優希 編『東大キャリア教室で1年生に伝えている大切なこと: 変化を生きる13の流儀』(東京大学出版会)
2019/03