東京大学公式の情報サイト「東大ナビ(UTokyo navi)」は、本学の部局や研究所が開催する多彩なイベントの情報を集約し発信しています。


Summary

  • 異才を見守るROCKETの世界

  • あなたも使える対人関係のヒント

  • ICTが多様性を育てる


自分にあった学びを見つけられる幸せ

人は皆、しつけや教育を通して社会との接し方を体得していきます。大人たちは子どもたちの健やかな成長を願いながら、時には褒め、時には叱ります。その反応は様々で、社会に適応していく子もいれば、うまく適応できずに社会から孤立する子もいます。本書では、そのようなうまく適応できずに社会から孤立する子を「育てにくい子」と表現しています。実は東大には、そのような「育てにくい子」を排除せずに、彼らにあった学びを模索するプロジェクトがあります。しかもそのプロジェクトは、大人たちまでがワクワクし、考えさせられる内容です。今回はその取り組みについて書かれた書籍を紹介します。

「育てにくい子」の憩う場所

この本の著者である中邑賢龍先生は、東京大学先端科学技術研究センター(先端研)の教授であり、ICTを活用した社会問題解決型実践研究に取り組んでいます(研究室公式HP http://at2ed.jp/)。中邑先生は2014年に始まった「異才発掘プロジェクトROCKET」のディレクターを務めています(ROCKET公式HP https://rocket.tokyo/)。ROCKETとは、“Room Of Children with Kokorozashi and Extraordinary Talents”の略であり、ユニークな子ども達が彼ららしさを発揮できる場の創造を目指しているそうです。小学3年生から中学3年生を対象に参加を募り、毎年数十名規模で選ばれています。

大人も受けたい!ユニークな授業

自分たちが使う教室の壁を、自分たちで真っ白に塗る。十勝の原野で炭焼き窯を再生する。ネット禁止のルールで、鳥居を分類してみる。これらはROCKETが過去に実施したプログラムの一部です。どれも、大人が受けても楽しそうなワークショップばかりです。ROCKETでは子どもたちを新しい世界に飛び込ませ、その場をどうやって切り抜けていくのか体得することを促します。また、各分野で活躍するトップランナーの講義を受ける機会もあります。周囲と馴染めない孤独の先にも、突き抜けた未来がある可能性を見せてくれます。これらの授業は、勉強というより研究に近いかもしれません。義務教育に馴染めない子どもたちのために、オリジナルの生存戦略を自ら研究開発する機会を与えるのです。

今日から使える!対人スキル

誰しもが一度は対人関係に悩んだことがあると思います。私は本書を読みながら、それらは大抵、自分と同じ能力や思考パターンを相手も有している、または理解していると期待しすぎていることに起因するかもしれないな、と感じました。本書では、こうした悩みを解決するヒントを読み取れます。人間には一人ひとり性質の凹凸がありますが、凹が目立つ「育てにくい子」とのやりとりを通じて、誰もが使える処世術のヒントを明らかにしてくれることもあるのです。本書の例から、ありそうなシチュエーションを想定してみましょう。

Q.同期が口下手で、何を考えているのかわかりません。(参考:本書p.32)
A.言い負かそうとしてはいけません。
コミュニケーションの手段として、情報を音声で認識するよりも、目で見て判断することの方が得意なのかもしれません。チャットなどを使って文字でやりとりしてみたり、写真やイラストを見ながら話してみることを心がけましょう。

Q.優秀さを鼻にかけている後輩にイライラします。(参考:本書p.41)
A.我がままな態度については叱り、自らのレベルを思い知る場へ誘導するように挑発してみましょう。
今まで褒められ方や叱られ方に恵まれなかった人は、自意識が肥大化してしまう場合があります。過度に傷つけすぎないように上手に指導してみましょう。

「矯正知能」はずるいこと?

中邑先生は、従来の学習環境に適応できない子たちのために、身の回りにあるテクノロジー(通称:アルテク)を活用することを薦めています。例えば、文章読解が苦手な子には読み上げソフトを、周りの音が気になって集中できない子にはノイズキャンセリングヘッドフォンを、といった具合に、です。
本書では、アルテクを利用した「矯正知能」の状態で学力テストに臨めるよう主張しています。皆さんは、その取り組みについてどうお考えになるでしょうか?当然の権利だと思われる方もいらっしゃるでしょうし、なんだか特別扱いのようで違和感を覚える方もいらっしゃるでしょう。

私は、メガネのように、もっとカジュアルにアルテクを活用してもいいと考えています。メガネをかけることは、テストの場ではもちろんのこと、運転免許取得の際も認められていますよね。
ぜひ一度、本書をお手にとってみてください。


中邑賢龍『育てにくい子は、挑発して伸ばす』(文藝春秋)
2017/8