東京大学公式の情報サイト「東大ナビ(UTokyo navi)」は、本学の部局や研究所が開催する多彩なイベントの情報を集約し発信しています。


Summary

  • IT技術革新に後押しされる現代の金融変革

  • 便利なだけじゃないFintech

  • 経済学と法学を融合させる!


 

最近、お財布を持たないで出歩く機会が増えたという方は多いのではないでしょうか。スマートフォン1つ持っていれば、コンビニなどでは電子決済で買い物ができる。海外へ行く際も、クレジットカードを持っていれば両替をしないで済む。そんな社会が、いつの間にか実現しています。もともとは物々交換における価値の定量指標としての貴金属だったお金という概念が、国家の信用を元に発行する通貨を経て、現在、大きく変わろうとしています。思えば、お金って通貨である必要性はないんですよね。文明が発展した結果起きているこの現象ですが、その文明に深く根ざしているお金の概念が変わるとき、文明自体は、どのように変わらなければならないのでしょうか。

そのような新しい時代における金融システムとそれに関する法律の現状と将来の展望に関するシンポジウムが、先日、東京大学公共政策大学院主催で開催されました。事前登録で満員となったこのシンポジウムに参加してきたので、そのレポートをしたいと思います!

「新時代における金融システム・法制度の展望」というテーマで執り行われた今回のシンポジウムですが、東大の先生方をはじめとして、金融庁企画市場局長や、シンクタンクや法律相談事務所の著名な方々を登壇者として招いており、技術的・ビジネス的・政治的に最先端の話をたくさん聞くことができました。

技術の発展によって、私たちの文明にどんな変化が起きているのでしょうか。先述のような電子決済の仕組みだけでなく、ビットコインやイーサリアムに代表される暗号通貨、クラウドファンディングなどの出資に関するオンラインマッチング、様々な金融サービスのプラットフォームとなる他業界企業の台頭など、Fintech*と称される最新技術を利用した金融業界の変革は、年々加速度を増しています。私たち生活者にとっては、選択肢が増え、どんどん便利になっていますよね。

一方で、IT技術革新が押し進むことは、金融業界の人たちにとっては、いい事だけではないそうです。Fintechによって、金融業界の機能は分割され、今まで存在しなかったプレーヤー**たちによってその機能が担われつつあるためです。この流れは「アンバンドリング」といって、その結果、統一的に金融業務を行う銀行に課せられているような現行の規制をくぐり抜けることができる企業が競合相手となるため、法整備の追いついていない国々において、銀行業を営む企業はどんどん苦しくなってきているのです。銀行だけでなく、金融業界全体の展望を考えているようなポジションの方々も対応に追われています。

アンバンドリングに日本の金融業界はうまく対応できていないそうですが、これは現行の法律が、業種別の体制をとっていて、今回の新規プレーヤーの参入が機能別に行われているからに他なりません。例えば、今の法律において、銀行業を営む会社は子会社に事業会社を持つことはできませんが、一方で事業会社は子会社に銀行業を営む会社を持つことができます。このような金融業界とその他の業界の非対称性が原因で、多くの歪みが生じているそうです。

さらに、ICO***によってIPO***の代用を行おうとする流れも大きな問題を孕んでいます。IPOにより発行される株式は、有価証券という扱いを受けるので、それを手にした株主は、株主としての様々な権利を得ることができます。しかし、まだ新しく法整備もなされていないICOに投資を行なった人たちが、不当な扱いを受けお金を騙し取られるといった事件も発生したそうです。

この日本という国では、法学は事実の集積的な側面が強く、欧米で行われるような「いついつ頃から、このような変化が見受けられる」というような柔軟な解釈は受け入れられず、「何年何月何日に、AからBへの変化が生じた」というような厳格な見解が求められるそうです。これでは、欧米のように変化に迅速に対応することもできないそうです。

このような諸問題を解決するべく、日本の金融機関や新たなプレーヤー、規制当局も、新時代における金融環境に応じた金融システムや法制度のあり方について、検討を行い、再構築に向けた模索を行なっているそうです。

参加者の多くは、金融機関に所属している方のようで、学生の姿はあまり見受けられませんでした。大学や会社などの規模で考えていては気づけないような知見をたくさん持ち帰ることができる会だったので、次回以降があれば、もっと学生の参加が増えるといいなとも思いました。未来の担い手として、社会の構造が大きなダイナミクスで変化していく様子は必見です。

ちなみに私は工学部に所属しているのですが、その立場から見た時に、経済学的な視点を持つ方々と法学的な視点を持つ方々の考え方の違いが、とても興味深かったです。経済学は、あくまで現状や慣例に捉われず、理論的に導かれる法則を追求していくのが主流だそうです。なので、そもそも金融業界のプレーヤーも、銀行と事業会社のような業種ベースではなく、機能ベースで見ていて、今回の技術革新も、今までの金融サービスの発展から連続的なものであると見ているようです。経済学者にとって、法制度という“機能”が担うべきなのは、市場がよく機能するための動線設計であると言います。そのため、今回の技術革新に対しても、いきなり規制から入るのではなく、市場の完備化・税制度の導入・規制の順番で行うべきなのだそうです。一方で、法学は、現状起きている変化や問題に対して、市場のパワーバランスが崩れることのないように法律の穴を潰していくことが大切だという印象を受けました。なんとなく、トップダウン的で理論的な経済学と、ボトムアップ的で現場主義的な法学ですが、Fintechに端を為す今回の金融変革に対して、その協力体制がどうなっていくのか、注目してみたいと思いました!

*FinanceとTechnologyを組み合わせた造語
**特定の役割を担い市場に参画している人や組織のこと

***ICO・IPOはそれぞれ、Initial Coin Offering・Initial Public Offeringの略称。IPOは新規公開株のことで、株式を投資家に売り出して証券取引所に上場し、事業の運転資金を得るというもの。ICOは、IPOにおける株式を、暗号通貨で代用するというもの。


シンポジウム「新時代における金融システム・法制度の展望」
http://www.pp.u-tokyo.ac.jp/events/2018-08-06-15018/