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Summary

  • 体系的には理解しがたい道徳

  • 道徳と欲求は似ている!?

  • 東大教授が道徳を再定義し、AIに教え込む!


 

みなさんこんにちは。平成最後の夏はいかがお過ごしでしょうか。今年の夏は、記録的な猛暑や豪雨、そして台風、さらには地震と、さまざまな自然災害が日本で発生しています。そんな時は、“仲間”同士、助け合うことが大切ですよね。7年前の東日本大震災の際に大規模の計画停電を行ったのも、まだ記憶に新しいです。ところで、日本は災害時に強盗や傷害などの犯罪があまり発生しないことでも有名ですよね。そんな有事の時に色濃く表れる、助け合いをしたり、他人を傷つけないようにしたりといった、当たり前にも思える“仲間”意識ですが、これは何に基づいているものなのでしょうか。

それは、道徳です。

道徳と聞くと、小学校の道徳や高校の倫理の授業などが思い出されるかと思います。そして高校生時代の私の率直な感想は「色んな偉人が色んな事を言っているな」というものでした。つまり、各人が言っていることは正しそうだけど、体系的に比較できないから、結局、倫理や道徳が全体で何を表しているのかわからない。そんなふわっとした概念の上に乗った“仲間”意識で行動するのは不安ですよね。

近い将来、SFの世界のような「一家に1台ロボット」の時代が到来するといわれています。そのロボットは、どのような道徳を搭載して、私たちの“仲間”になるのでしょうか。

こんな時代だからこそ、古代から現代まで多種多様に語られてきた道徳を、網羅的かつ構造的にモデル化する必要がある。そう考えた東大工学部教授(同医学部教授兼任)の鄭雄一先生が、ある本を出版しました。

『東大教授が挑むAIに「善悪の判断」を教える方法』です。

グローバルな多様性を受け入れなければ(競争社会で)生き残れない時代において、その“仲間”意識を再定義する必要がある。一方で、最近のアメリカやイギリスで見られるような、多様性を志向しながらも自民族中心主義に向かってしまうといった矛盾も解決しなければならない。そんな世界情勢下で、完全な自律操縦ロボット (AIを積んだロボット) を生活に投入する意味があるのでしょうか。また、そんなロボットと私たちは安全に共生できるのでしょうか。そのような時代を迎える準備として、私たち人間がまず、お互いの属する異なるコミュニティが、それぞれどのような道徳的なルールに従っているのか、どこまでが共通部分でどこからが違う部分なのか、そしてその多様性そのものも理解し受容することが大切なのではないか、とこの本は説きます。そしてこれらの理解と受容の先にこそ、人類がロボットと共生し発展できる未来があるのではないかと続けています。

この本では主に、「過去の例を使って、道徳を網羅的に分類する」「似たような行動要因である欲求をつかって、道徳を構造化する」「構造化した道徳をアルゴリズムにして、AIに搭載する」という流れで展開していきます。

私が最も驚いたのは、「似たような行動要因である欲求を使って道徳を構造化する」の部分です。前の「過去の例を使って道徳を網羅的に分類する」章で、道徳が共有される範囲は、“仲間”の範囲で決まるという知見が得られました。そしてこの章では、マズローの欲求の五段階説をMECE*な分類に改良して出来上がった“仲間の範囲”を基準にした欲求階層を、道徳の次元(本書では、道徳次元は1から4まで定義されています)として対応させました。その中で、道徳的に振る舞うということは、どんなコミュニティに対してどんな関わり方をしたいかという欲求に対応するという仮説が導かれました。この分類方法を用いることで、“仲間の範囲”(本書では、共感の範囲に対応すると定義されています)から、個々人の道徳次元を判別することができるそうです。ここで用いられた道徳次元の判別方法は本書で説明されているので、ぜひ読んでみてください。みなさんの道徳次元は、どの段階にあるでしょうか?!

各論的になってしまいがちな道徳や倫理の考え方を構造的に再構築した本書は、中学校や高校の授業で使うテキストとしてもってこいなのはもちろんの事、大学生や社会人になっても何度も読む価値があると思いました。多様性やAIの利用が鍵となる現代において、広い意味で“仲間”とどう接していくか、そんなことを考えさせられる一冊です。

今回は、私の思う「現代を象徴する本」を紹介したわけですが、現在、東大ナビでは「東大生の読んでいる本」についてのアンケート(http://www.todainavi.jp/archive/14835/)を実施中です!「一息つきたいときに読む本」や、「何もかもが嫌になったときに読む本」など、様々なテーマで、みなさんのオススメの本を紹介してほしいです!このアンケートの集計結果も近日公開しますので、お楽しみに!

*Mutually Exclusive, Collectively Exhaustiveの省略形で、「重複無く、漏れなく」の意

鄭 雄一『東大教授が挑む AIに「善悪の判断」を教える方法』(扶桑社新書)
2018/05


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【回答期限 9月12日(火)23:59】