東京大学公式の情報サイト「東大ナビ(UTokyo navi)」は、本学の部局や研究所が開催する多彩なイベントの情報を集約し発信しています。


いきなりですが、クイズです。ブラック上司、二枚舌、小悪党。これらの容赦ない毒舌は、本書の中で誰に向けられていると思いますか? 本記事を読みながらちょっと考えてみてください。

著者である本郷和人教授(東京大学史料編纂所)が、彼らを貶すような表現を使用するのには理由があります。私たちは彼らのことを、教科書やメディアを通じて知り、歴史上の偉人という括りで理解しています。偉人はどうしても功績ばかりに目が向き、神格化されてしまいがち。本当の意味で彼らを理解するために、本書では敢えて闇の部分に焦点を当てているのです。そんな愛のある毒舌評を、少しばかりご紹介したいと思います。

本書では戦国時代に活躍した15人の偉人に着目し、批判的な目線で彼らの人生を考察しています。
戦国時代はとにかくスターが多いことで有名で、NHKの大河ドラマで何度も舞台にされています。幾度となくドラマとして描かれても決して色褪せないのは、登場人物の多様性と歴史解釈の難しさがあるからだと思います。そんな複雑な時代を、200ページちょっとでおさらいできるのはとっても「コスパが良い」ですよね。

豊臣秀吉を例に見てみましょう。多くの人は豊臣秀吉に対して、有能な叩き上げの人、陽気な人たらし、というイメージを持っているのではないかと思います。少し歴史に詳しい方は、晩年の奇行について言及するかもしれません。著者はそこに、生まれに対するコンプレックス、冷酷な人事評価、信長の敷いたレールを歩いていただけ、という影を描き加えます。光と影の二面性を俎上に出すことで、深みのある秀吉観を感じられると思いませんか?ちなみに冒頭で述べたブラック上司とは秀吉のことです。二枚舌と小悪党、それぞれが示す人物の正解についてはぜひ、本書で確認してみてくださいね。

人間は他人とのやりとりの中で行動を決めるものです。それは戦国武将も例外ではありません。例えば、織田信長は超実力主義の人事裁量で有名です。有能ならば誰でも登用しますが、無能なら(本当の意味で)クビ。こんな上司の下で働くストレスは計り知れないものでしょう。信長に重んじられていた浅井長政も明智光秀も、ふとした瞬間に信長という大きな壁を、あるいは自分たちを社畜として使い倒すブラック企業の社長を倒してみたいと考えたのかも知れませんね。

こうやって読み進めてみると、教科書やドラマというメディアを通してのみ伝えられる「偉い人」という視点が緩み、こんな人が友達だったら、上司だったら、部下だったら、と息づかいを感じるリアルな像が思い浮かぶことでしょう。私は徳川家康の部下になってみたいなと想像しました。室町時代や戦国時代と比べて華やかさはないですが、とても堅実なビジネスをして、ホワイト企業ランキングに載りそうな会社に成長しそうですからね。ちょっと歴史を勉強したいけど、入門書として丁度良い本はないだろうか、と探している方にオススメしたい一冊です。クスッと笑える軽妙な文章なので、勉強の息抜きにもどうぞ。

本郷和人『真説 戦国武将の素顔』(宝島社新書)
2017/5