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みなさんこんにちは。今日はみなさんに、大切なことを“伝えたい”と思います。

「自分はこんな人だ」「こんなことがしたい、してほしい」「あなたのことをこう思っている」など、何か“伝えたい”ことがある時、みなさんは“言いたい”ことを言っていませんか?

一方で、「勉強しなさい」「もっとシフト入れませんか」「こんなことも理解できないのですか」など、こちらの状況を鑑みない発言を受けたことはありませんか?

会話やメッセージのやり取りとは、だれかとだれかが真意を交換し、同じゴールを目指すための行為です。しかし、前述のような発言は、話し手が独りよがりに話すばかりで、聞き手の理解と咀嚼を置き去りにしてしまっています。人の心を動かし、行動に移してもらうには、 “言いたい”ことを言うだけでは事足りないのです。

それでは、「伝える力」とは、一体どのようなものなのでしょうか。

東京大学大学院理学系研究科の上田正仁教授が執筆した『「伝える力」の鍛え方』を紹介しようと思います。用件を伝える・アピールをする・人を動かす・教育や子育てをするなど、およそ私たちの日常生活の中で「伝える力」が必要ない場面は存在しません。「伝える力」は相手がいないと成り立たず、それゆえ、「伝える力」を鍛えることは、相手の立場に立って考えるという、人が人間社会で生きていくうえで最も大切なことの一つを見つめ直すことにつながると、上田先生は言います。

本書では、「伝える力」を三つの段階に分解しています。

一つめは、「用事が足りる伝え方」です。この力は、事実を伝える・用件を伝える・伝言を伝えるという三つの要素に分けられ、これらを段階的に鍛えることで身につくそうです。用件を伝えるには、単なる事実を羅列するのではなく、意図が伝わるように話の幹を残し、枝葉を可能な限り削ぎ落とす必要があるそうです。そして、伝言を伝えるためには、話し手の話の中からこの幹と枝葉を聞き分ける「聞く力」が大切だそうです。このプロセスにおいて、幹を取り違える・枝葉を膨らませる・事実(聞いた内容)とは異なる意見を入れるなどの行為を行ってしまうと、誰もが経験したことのある伝言ゲームのようなことが現実に起きてしまいます。

二つめは、「聞く気にさせる伝え方」です。例えば学術プレゼンテーションの場合、聞き手のレベルに依らない、自身の発表の「何が不思議か」といった根幹を明確にすることで、聞き手の聞く力を引き出すことができ、ようやくプレゼンを成功させることができるそうです。そして、プレゼンのように話を聞くために集まった相手でなくとも、伝えなければならない場面もたくさん存在します。言いにくいことを伝えなければならない場面において、私たちは事情や背景から話してしまい、むしろ相手をイラつかせてしまうことがあります。このような場面でもやはり、話の幹を整理し、伝える必要があります。そして、相手の「自ら納得する力」を引き出すためには、「結論→理由→事情」の順序で話すのが効果的だそうです。しかし、その結論が相手にとってショックな場合、その後の話をまともに聞いてもらえなくなる可能性もあるので、適切なワンクッションを置く必要もあるそうです。例えば、みなさんの多くが経験している、ないし経験するであろう、就職活動における「内定辞退」について考えてみましょう。内定を辞退しようという場合に、自分の選社軸や他社選考の状況から話始めて採用担当の方をイラつかせてしまうのは最もダメな例になるのですが、結論から話そうとして開口一番に内定辞退の意向を表明してしまうと相手にショックを与えてしまい、その後に話す理由や事情を聞いてもらえなくなってしまうことがあります。この場面でも、聞き手のことを考え、「大変申し上げにくいことをお伝えしなければならないのですが、」などとワンクッションを置くことで、相手の心を閉じさせないような工夫をする必要があるのです。

三つめは、いよいよ「人を動かす伝え方」です。参加者のそれぞれに明確な目的があり、衝突も多い交渉に関する「伝える力」の鍛え方になります。伝える力が未熟な人のなかには、交渉の場において相手をコントロールすることで自分の目標を達成しようと考える人がいます。しかし、本来の交渉のあり方は、お互いに知恵を出し合い協力し合うことで、共通の利益を見出し、創造的に問題解決を図るものです。このようなwin-winな交渉を実現するためには、交渉の双方向性・判断基準の多次元性・時間軸を意識する必要があるそうです。その中でさらに重要なのは、相手の話の枝葉にもじっくり耳を傾け、判断基準・優先順位を決定して共有すること、相手と未来を共有することを意識すること、だそうです。

「伝える力」を論じるとき、独力でできることは話の幹と枝葉を整理することだけ。聞き手の立場になって考え、“伝える”という目的を達成するためにいかに相手との相互連携を考えることがいかに大切か、本書から伝わってきました。みなさんも、ぜひ“言いたい”ことを相手にぶつけてしまう前に、一度立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。

上田正仁『東大物理学者が教える「考える力」の鍛え方』(PHP研究所)
2018/03