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みなさんこんにちは。今日は暑いのか、涼しいのか、毎日起きてからうだうだ考えなければならない今日この頃。衣替えはしたものの、上着は必要。今日は上着を着忘れなかったと思えば、暑くて手荷物になる。そんな、みなさんの身の回りにもたくさん潜むディレンマですが、俯瞰的に社会を見てみると、ほとんどのものに、大なり小なり絡みついていることが分かります。

さて、第127回東京大学公開講座(公開講座全体に関する記事は バックナンバー を参照ください!)の、1日目と2日目に参加して来ました!テーマはそう、「ディレンマ」です。ディレンマというのは、簡単にいうと「あちらを立てればこちらが立たぬ」というものです。東京大学公開講座は、1つの大きなテーマに関して、各日3名の東大教員がそれぞれの視点から論じるというものになっています。今回は、実際に参加した6つの講義の中から2つの講義をピックアップして、私なりの解釈と共に紹介しようと思います。

・尾山大輔先生「意思決定のディレンマと制度設計:東京大学進学選択制度の事例」
東大生のみなさんのうち、ほとんどの人は進学選択を経験しているかと思います。私が駒場生だった頃は進学振り分け(以下、進振り)といいましたが、進振りは「学びたい内容」よりも「行ける専攻」を選択することで利益を生み得るという、学生の戦略的な考えを誘うような制度であり、ディレンマが意思決定に大きく影響するものでした。その制度のもとで行われた進振りでは、ある専攻とマッチング度の高い(専攻からの評価、学生の志望度がどちらも高い状態の)学生が、ギャンブル性の高い戦略的な駆け引きの末、よりマッチング度の低い学生に枠を取られてしまい、結果的に他の専攻に配属されるというケースが頻発していました。この状態は、経済学用語で「正当な羨望」という感情を生み得るもので、アリストテレスは、これを取り除くことで公平な社会が実現できるとしました。そこで、東京大学は、20世紀にGaleとShapleyという経済学者により提唱されたDAアルゴリズム(元々、安定結婚問題を解決するために発明されたマッチング手法)を導入し、進学選択制度を大きく改定することを決めました。この新方式により、学生は、「正当な羨望」を抱くことがなくなり、純粋に学問的興味に従って進学選択を行うことができるようになりました。

・中澤栄輔先生「タバコをめぐるディレンマ」
もう一つ、タバコにまつわるディレンマを紹介します。タバコやお酒に代表されるような嗜好品は、身体に対する効果が明確には解明されておらず、栄養分として必要とされるわけではないが、人間の味覚や嗅覚、視覚などに刺激を与えるものだといわれています。このように、人によってその必要性に関する考え方が異なる嗜好品の周りには、たくさんのディレンマが存在します。特に、近年健康への影響が懸念されているタバコは、「やめたいのにやめられない」「やめてほしいのにやめてもらえない」といった分かりやすいディレンマを抱えています。非喫煙者から見たら、パターナリズム(強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益のためだとして、本人の意志は問わずに介入・干渉・支援すること(出典:Wikipedia))的に、すべての喫煙者に対して法律で禁煙を義務付け、タバコ自体を根絶やしにすることは簡単かつ正解のように見えてしまうかもしれません。しかし、タバコの嗜好性を考えると、喫煙者は、単純にニコチンの中毒性から喫煙を行っているわけではなく、様々な価値をタバコから受け取っている可能性が考えられます。健康被害の可能性を鑑みても、それ以上に他の価値を享受している場合、喫煙という判断は合理的だと考えることができるため、上述のような法律は、単に自由を束縛しているだけの”駄策”となってしまいます。
しかしながら、タバコの問題においては、喫煙者よりも非喫煙者の方を中心に政策を考えるケースが多いです。これは、二次喫煙(俗にいう受動喫煙。タバコから出る副流煙や喫煙者が吐き出した煙を、第三者が吸引すること)や三次喫煙(タバコの煙が地面や壁、衣類などに付着し、それらが再び空気中を舞い、それを吸引すること。最近の研究では最も危険性が高いとする研究結果も出ている)が発生することを考えた際に、喫煙という行為には「他者危害」の要素が多分に含まれるため、法律により喫煙を制限することは正しいとする主張に基づいています。
これらの議論から抽出できるディレンマとしては、「法規制は、人間の自由をどこまで制限してもいいのか」「他者危害を伴わない自傷行為は認められるのか」などが挙げられ、タバコのディレンマは、民主主義の根幹に関わる問題として大変興味深く感じました。例えばみなさんも、「未成年者の入店が禁止されていて、従業員や清掃員など店内に入る可能性がある人はすべて愛煙家である居酒屋を、法律で制限することはできるか」という命題に関して、周りの人と議論してみると面白いかもしれません。
ところで、これら全てのディレンマの根幹には、「タバコの健康被害や、喫煙者に与える価値」が明確になっていないという問題が鎮座しています。実際に、現在タバコの製造販売を行なっている企業も、研究開発を通してこれらの解明を行い、タバコと同じ効用で、かつ健康危害のない、全く新しい形の嗜好品を創生しようとしています。

マッチングのディレンマにおけるDAアルゴリズムも、タバコのディレンマにおける新しい形の嗜好品開発も、科学の力で多くの人の人生をより良いものに変え得るものです。科学というのは、理系文系を問わず、このような現実におけるディレンマを解決するための手法として、人類の希望たるものだと、私は考えています。

長々と語ってしまいましたが、実は、東京大学公開講座「ディレンマ」は今週末の6月23日(土)に最終回を残しております!もし興味を持たれた方がいましたら、当日券も購入可能なので、ぜひ行ってみてください!!なお、東京大学公開講座自体は2018年度秋季やそれ以降にも開講予定なので、自分なりの課題を持って参加してみてはいかがでしょうか。

東京大学公開講座
https://www.u-tokyo.ac.jp/publiclectures/

過去の公開講座は、東大TV で視聴できます!
http://todai.tv/