東京大学公式の情報サイト「東大ナビ(UTokyo navi)」は、本学の部局や研究所が開催する多彩なイベントの情報を集約し発信しています。


弁護士になるものだと思っていたら…

須賀さん

小学校高学年の頃、アメリカの法廷で陪審員を熱く説得している弁護士の話を映画かなにかで知って、国際弁護士になりたいなと思って。どうせならトップを目指そうと、東大法学部を漠然と考えました。私が幼稚園から15年間通っていた女子校は、受験もなく好きなことばかりやっている環境でしたから、勉強が出来ることに大した価値はなかったんです。おしゃれであることとか友達思いであることとかと同じように、勉強が出来るという特徴を持っていた、そのくらいのものでした。そんな学校にいたので、東大受験のためのノウハウが必要で塾に通うようになり、それから本格的に東大に受かるための勉強をコツコツとし始めて、受かりました。勉強面では塾で助けられ、勉強以外の大切なことに気づかせてくれたのは高校でした。

私は自分自身が納得することが大事だと考えていて、自分で「良いな」と心に決めて東大受験をしましたから、もし日本で最高と思える東京大学に入って「なんだ、大したことないな」と思っても、それはそれで納得できるかなって。だけど実際に入ってみると、まわりは自分を高めることを楽しむ人たちばかりで、日本でトップを目指してきた人達はさすがに違うなぁ、って良い意味で予想を裏切られたと思いますね。

大学は自分で時間を作れるじゃないですか。だから、駒場キャンパスが汚いからってごみ拾いをしたり(笑)、イベントを企画したり、ビジネスコンテストに出たり、人気の授業を立ち見したりと、本当に自由に生活していました。ところが大学三年生のとき、大学の先輩に将来したいことを喋っていたら「大変残念なことに、君のやりたいことは弁護士じゃなくて役人じゃないとできないよ」って言われて。「残念」とはすごく性格的に向かないと思うけど、という意味です。私はもともと、組織に入るのなんかまっぴらごめんよ!っていうタイプで、なんでみんな社会に出て組織に入ると落ち着いて小さくなっちゃうんだろうって思っていました。ですから、組織プレーががっしりしている役人の世界なんて当然考えていませんでしたので、その分先輩の言葉は印象に残りました。それから、法学部の必修授業の他に、面白そうな授業を見つけようとして教務課に行って大学院のゼミの一覧を見ていたんです。そこで、興味があるものに印を付けたら全部行政系のゼミだったんですよ。これにはさすがに驚きましたね。自分はパブリック・マインドがちょっと強くて、世の中に良いインパクトをもたらす起爆剤になりたい、そのことに気が付いたんです。幸い、弁護士になるため司法試験の勉強を1年生の時からやっていたので、法律の知識はそのまま公務員試験で生かされました。

自分の興味に「気がついた」

パブリック・マインドと言いましたけど、私は性善説をとっていて、人間は本質的に幸せになりたいと思っているだけ、悪い人はいないと考えています。みんなが幸せになろうとしている活動の結果が不幸を招くとすると、それは制度が悪いせいじゃないかと思うんです。例えば環境問題。人間が成長のために一生懸命活動をしている結果として、CO2が発生して気候変動が起こりますよね。公害もメカニズムは同じです。環境問題について、弁護士が出来るのは主に損害賠償という事後的なもの。それに比べて役人の仕事は環境破壊をやめさせる法律を作ったり、環境にやさしい技術の開発を推進したりと、環境問題を予防する制度づくりを公の力によってできるのが魅力だと考えました。東大生って、結構こういう大きな話が好きですよねぇ。

先ほどの先輩以外にも、大学院の行政学のゼミに受け入れてくださった先生や、インターン先の外資系企業の先輩などから影響を受けました。あとはAIESEC(学生の海外インターンシップを斡旋する非営利団体)の友人が主催していた「官か民か」という討論会からも影響は受けましたね。「民」のほうの出演者に興味があったんだけど、行ってみると「官」側の人の話に惹かれちゃっていましたね。だから、大学三年生の時期は色々な転機が重なったんですよ。その半年間で、小学校時代からの夢が崩れたんですから。

それから、学生時代にいわゆるベンチャー企業の社長さん達とたくさん出会えたことは有り難かったかな。彼らには企業観を変えさせられました。ヒルズ族ってお金の亡者みたいなイメージで言われていますけど、実はパブリック・マインドの高い社長さんが結構多いんですよ。大企業と互角に張り合おうと必死に戦っている彼らと比べて、自分が仕事で第一線を張る人間になれたかと言われたら微妙だったかも知れないです。一方で、世の中に貢献しようと頑張っている彼らの活動を、ある時点でムーブメントにして制度に組み込まないともったいないな、とも痛感しましたね。企業経済は、今ある制度の中でどれだけの成果を挙げるかというシビアな世界です。もちろん、上の方に行けば企業も世の中の仕組みづくりに深く関わっていますが、若いうちからそこには関われないですよね。だからこそ経済産業省は楽しいですよ。制度を根本から変えて良い国にしたいって思う人がたくさんいます。

学生時代には満足していますが、今思えば、もうちょっとリーダーシップを取るという潔さを持っていればよかったかな、と思います。高校生までは何かをまとめる役は何となく私が引き受けることが多かったのですが、大学に入るとリーダーをやりたい人って沢山いたので、じゃぁやりたい人にお任せしましょうって感じになっていました。でも、将来社会のどこかでリーダーシップを取ろうと思ったら、失敗しても致命的でない学生のうちにたくさん試行錯誤して経験を積んで、自分がチームに与えてしまう影響を理解しておくべきですよね。それが私の場合は高校時代で止まってしまっていて。今は一応係長なので、小さいですがリーダーシップをとる仕事もしています。学生のうちにもう少し潔くリーダーを引き受けて修行していれば、今の仲間にもあまり迷惑をかけずに済んだかな・・・と思います。

「思い」を共有できる人と仕事をしている

後輩からは「怒ると怖い」と言われます(笑)。でも、その人のいいところを見抜いて、期待して、この人なら出来ると思って仕事を任せたり相談したりしているつもりなんです。私は元来あまり面倒見のいいほうではないのですが、後輩が日々の業務に埋もれて国の仕事の楽しさを感じられなくなってしまうのが悲しくて、色々おせっかいするようになってしまいました。確かに、入省して一年目は情報の洪水に放り込まれるようなものです。意識を高くもったままその中を泳ぎきることは大変な作業だけど、どんな職場に行ってもあるだろう修行の期間です。私はその期間に、上司から細かな仕事の先にある大きな国家ビジョンをとくとくと語ってもらって、いつかその真ん中に行きたいと、それをモチベーションにして仕事が続けられたんです。だから私も後輩に対しては、小さな仕事も大きな価値に繋がってるんだから頑張って、と励ましています。

須賀さん

自分で不思議だなと思うのは、人と競ったことがないことです。もし同じポストを何人かで争っていたとしたら、押しのけて自分がそのポストに就こうとは思わないで、人に譲ってしまいます。私の周りには「なかなかやるな」と思える人がたくさんいますし、親友たちは一目置ける人ばかりですが、だからといってライバルとは思いませんね。あと、人のいいところを見つけるのは好きです。親の教育もあったのかな。「あなたの敵はあなたですよ」って考え方を教え込まれたんです。だって、隣の人を蹴落としてまで自分が高い地位につくって、なんか小さいじゃないですか。同級生よりテストの点数が一点高かったからって、私には何の意味もないと思います。

そういう意味で、競争の激しい役所は元々は性に合っていないはずなんですけど、そんな人までが面白いと感じる職場なんです(笑)。「この選択が儲かる、儲からない」という判断の当否は評価が比較的簡単ですが、「これが日本のために正しいか正しくないか」という判断は多様です。私はその中で自分の思いに近い人を探してやっています。

今は資源エネルギー庁でエネルギー外交に携わっています。エネルギー政策は政府が一丸となり、戦略的に動いていく必要のある重要な政策です。例えば、資源獲得は総理のトップ外交やODAの活用とセットにすることが非常に有効です。気候変動問題はエネルギー起源の二酸化炭素が原因の9割近いですから、国内の省エネに加えて中国・インドでどうやって省エネを推進していくかといった具合に、エネルギー問題は環境問題や外交問題と表裏一体と言えます。世界のなかで日本が繁栄しつづけるためには、国が総力を挙げる必要があって、権限争いなんかしている場合じゃないんです。日本発で世界に対して有益なことをしたい、そういう思いを共有できる人であれば、組織や立場にかかわらず一緒にやっていきたいと思います。

今になって考えると、どの省に行っても楽しくやれたと思いますが、経済産業省は採用した職員に誇りを持ち、大切にしてくれる実感がありますね。人事担当者も入省の時にそう言ってくれたし、私がちょっと冒険しちゃった時も上司が守ってくれました。一人ひとりのキャラクターを大事にしながら面倒を見てくれるんです。あとはどんな人でも経済産業省の名刺を持って行けば一度は会ってくれる、その先輩達が蓄積してくれた信頼や名声にはずいぶん助けられています。だから、組織に入るのはまっぴらだ、個人で勝負するんだなんて考えていたのは随分未熟だったなと、今になって組織のありがたみを実感しています。

将来について

私自身は今の仕事を100%楽しんでいて、自分のやりたいことを一番制約なくさせてもらえるのはこの仕事だと思っていますから、これからもずっとこの職場にいられたらハッピーです。将来は国連などもっとグローバルな視点で仕事をやってみたいという気持ちはありますが、世の中を良く変えていくためのフィールドが日本だろうと世界だろうとあまり変わらないです。私が今まで危ういところで気づいて、納得のいくキャリアを積んで来られたのは、常に自分のアンテナを高くして、色々な価値観を持つ人たちと真剣に話して、社会の動きと自分自身に気づく機会があったからだと思います。これからも、今のミッションであるエネルギー・環境問題に限ることなく、開発問題や観光・医療などサービス産業のあり方、国と地方の役割分担のあり方など、なるべく多くの動きにアンテナを張って、視野を広く持っていたいですね。自分のやりたいこと、興味あることに素直に熱中する。そうしていると、自然と論理があとから付いてきますから。日本や世界を動かす核心の部分にいつも居たいです。

東大生・東大を目指す人へのメッセージ

東大って、素晴らしい教授が集まっていると思います。役人になった今でもよく意見を聞きに伺いますし、審議会の委員になっていただく事もあります。そんなすばらしい先生たちが教えようと思っている環境って、すごくありがたいと思います。だから、興味をもった授業だけでいいので、食い付いてください。全部の授業に出て単位を取るだけ取る、というのはあまり賛成できないです。授業で自分の興味を深化させ、本当は自分は何がしたいのかに気づければ幸いだと思います。学生のうちからこうした知的好奇心を高め、それを満たす経験を繰り返しておくことは大切なことではないでしょうか?

それから、授業以外にも同級生からも学べる稀有な学校だと思います。自分に限界を設けない青天井の議論、例えば、日本の統治のありかたを友人とスターバックスで語るなんて、今考えると青臭いけれど楽しい思い出です。東大生であることを誇りに思ってほしいです。

東大を目指している方へ。私のいた高校は大学付属校で、東大を目指す人があまりいなくて、受験のための情報収集には困りました。だからそういう受験生は、いい仲間を学校の外に早く見つけてほしいです。ライバルではなく、「この人と一緒に東大へ行きたい」と思える人を見つけて、頑張って下さい。

【編集後記】

一度話を始めると熱を持ったエピソードが続々と出てきて、目標が定まっている人の力はすごいな、と感じました。須賀さんにとっての大学三年は転機となったようですが、僕も現在大学三年、進路は迷っています。写真の通り、気さくで綺麗な方でした。


須賀さん

須賀 千鶴さん
平成15年法学部卒業。同年、経済産業省入省。
現在は資源エネルギー庁にてエネルギー外交を扱っている。

(編集:東京大学UTLife)