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トム・ガリー先生

ALESS(Active Learning of English for Science Students; 通称「アレス」)は、1年生の理科生全員を対象とした英語の必修講義の一つです。文科生の間でもその認知度は非常に高く、駒場の名物講義と言っても過言ではないでしょう。

ALESSの到達点は、簡単に言うと「英語の科学論文を自ら1本書き上げ、その論文についてプレゼンテーションを行う」いうことですが、そこに至るまでにはいくつものプロセスを経ることになります。具体的には、

  1. 英語で書かれた本物の科学論文を分析・検討することで、論文の論理構造や形式面での作法、フォーマルな用語法を学ぶ。
  2. 簡単な科学実験を自ら考案し、実行する。
  3. 1.で学んだことを踏まえつつ、自宅で自ら論文を書いてくる。
  4. 学生同士が2人一組になり、互いの論文について気付いた点を指摘しあい(ピア・レビュー)、担当教員からのアドバイスも参考にしながら、自らの論文を推敲する。
  5. 行なった実験・執筆した論文に基づき、5分程度のプレゼンテーションを行う。

といった形で授業は進められます。授業は全て英語で行われ、学生同士で議論をするとき、授業外で教員から指導を受けるときにも英語を用いることが求められます。

また、学生に対するサポート体制が充実しているのもALESSの特徴です。実験を行うために「ALESS Lab」というALESS専用の実験室が用意されていますし、講義棟の一角に設けられている「KWS(Komaba Writers’ Studio)」では、大学院生のチューターからマンツーマンでライティングの指導を受けることができます。

ここまでご紹介したのは、ALESSのほんの片鱗に過ぎません。そこで今回は、ALESS実行委員会マネージング・ディレクターのトム・ガリー先生(東京大学大学院総合文化研究科准教授)に詳しくお話を伺いました。

ALESS開講のきっかけ

いくつかのきっかけがありました。ひとつは、大学1・2年生時の英語教育、あるいは教育全体をいかにして能動的なものにするか、という課題が以前からありました。そのときに、能動的な教育を達成するための教室環境を作らなければならないという問題が出てきたわけです。これは、ALESSに限ったことではなく、例えば数年前に17号館にできたKALS(Komaba Active Learning Studio)や、つい最近オープンした21KOMCEEでは、「教壇があって、固定されている椅子がある」というわけではなく、テーブルも椅子も移動できるようになっています。これは、教室の環境をActiveにするために設計されたものなんです。それはALESSが始まる以前からの一つの教室開発の流れでした。

でも、どうしてそれが英語授業において特に必要なのでしょうか。日本での英語教育の伝統は、明治時代以来、受動的に、海外からの情報をいかに有効に日本に取り入れるかというのが主流だったんです。もちろん、明治維新の時の改革では、海外の、特に欧米の技術や知識というのは日本にとって必要だったので、当時は、時代に合ったパラダイムだったと思うんですが、戦後、特に60年代・70年になると、それも前時代的なものになり、日本が海外から情報を得るのではなくて、日本で新しく作った技術や知識を海外に発信するという必要が出てきました。ご存知のように、英語は世界の共通語になりました。例外もありますけれど、多くの場合は、異なる母語の人たちがコミュニケーションする時に、そこで使われている言語が英語になっている。それは必ずしも、英語圏と英語圏以外の人との交流に限ったものではないんですね。そうして、英語で「発信する」ことが必要になりましたが、特にどの分野で一番重要だったかというと、理系の分野、特に、科学・工学などの分野。なぜなら、自然科学の研究の対象は、その国のことに深く関わっているわけではない。物理学者が研究する素粒子の動き、天文学者が研究する宇宙の様々なものは、それが日本の宇宙、アメリカの宇宙と分かれているわけではない。自然科学の分野では、研究対象が言葉や文化と関係ないので、共通の言語がどうしても必要になります。それと対照的に、例えば文学や法学は、それぞれの国によって違うし、共通語によってやり取りするのが少し難しい時もあります。もっとも、共通語を使う必要もありますが。

トム・ガリー先生

もうひとつは、30年、40年前に、フランスとかソ連とかドイツで発表された科学の研究論文は、それぞれの国の言葉で書かれることが多かった。40年前では、ソ連だったらロシア語、フランスだったらフランス語で研究が発表されていましたが、現在は、フランスでもロシアでも、そして日本でも、全世界で、英語で発信するということが多くなりました。科学雑誌も、英語で書いてあることが多い。日本国内の研究会でも英語で発表することが多くなりました。それに東京大学では、理系の学生の約8割が大学院に進学します。これは世界でもとても高いレベルだと思います。そして特に大学院に入ると、英語で論文を読むだけではなくて、英語で論文を書くことが多くなりますし、海外の研究者との交流や研究会を通しての口頭発表など、様々な形で共同研究や交流があって、それも大体英語で行われています。東大の中でも、理系の研究室に様々な国の人が集まっていて、研究室の共通語が英語になっている場合もあります。

ですから、特に理系の学生たちに、英語のスキル、特に英語を発信するスキルが必要だということがあるんですね。でも、今までの英語教育は、それにはっきり言って対応していませんでした。発信することについては、この駒場(編註:東大の1,2年生全員が過ごす駒場キャンパスのこと)で様々な試みがありました。例えば、Academic Writingの教科書を出版しましたし、英語二列(P)(編註:1年生対象の英語の必修講義。ALESSは、英語二列(P)の特別プログラムとして扱われる)の中では、プレゼンテーションがあったり、論文を書いたりしているんですけれど、それは理系に特化してはいなかった。私が東大で教え始めたのは2002年でした。本郷の大学院理学系研究科化学専攻で、博士課程の学生たちに英語のWritingを教えていました。

そこで特に痛感したことは、理系学生は修士課程または博士課程でやっと英語論文を書き始めることになりますが、その前に英語論文の書き方についての指導や理系に特化した英語の教育をほとんど受けていないということです。駒場で2年間英語を勉強した後、3・4年生ではほとんど英語を使うことがないのです。ですから、東大の理系の学生たちの進路を考えて、どうやって必要な英語のスキルを育てることができるかを考えたんですが、我々が駒場で出来るのは、1年生・2年生の英語教育ですので、とりあえず、その範囲でやってみることになりました。

ちょっと話が戻りますけれど、私は2002年から2005年まで、本郷で非常勤講師として教えていて、2005年からはこの駒場に来て、当時の「教養教育開発機構」という組織に入りました。いまは「教養教育高度化機構」というものになりましたけれど、旧開発機構の中に、「Critical Writing Program(CWP)」というプログラムがありました。それも英語に関するものですね。そこで私ともう一人の教員が、様々なパイロット授業を行なっていました。「こういうような英語のライティング授業をやったらどうなるか」とか、様々な形でやってみましたが、理系のライティングは学生たちからの反応が非常に良かった。15人しか履修出来ない全学自由研究ゼミナールの扱いでやっていたのですけれど、そこに50人とか60人が集まってきたのです。そしてその数年間、様々な形で授業をやってみて、その途中で、学生に実験をやらせてそれに基づいて論文を書かせるということをやってみたら、学生たちのモチベーションも上がったし、論文の英語もしっかりした物になりました。そして大学全体からの理解も得て、2008年からALESSを始めました。もちろん、教員を雇ったり、オフィスを作ったりするのに予算も必要になりましたが、大学にも協力していただいて、開始にこぎつけました。

授業運営

ALESSの授業は全て英語で行われます。説明も英語、プリントも英語、発言や議論も英語です。なぜこのような形をとっているのか、疑問があるかもしれません。

トム・ガリー先生

外国語を教える際に学生の母語を使うべきか否か。英語教育全体の中で意見が分かれているところではあります。東大に入ってきた一年生には、海外に行ったこともなく、授業以外の所での外国人との交流もほとんどないという人も多い。でも、将来海外に行って、海外の研究所で働いたり発表したりとか、海外から様々なことを学んだりするだろうし、日常的にも英語で話すことが多くなるし、外国人がしゃべってる英語を聴きとる必要もあるので、とりあえず教室の環境は、できるだけそのような環境にしようと我々は思っているんですよ。実際に海外に行くと、長年英語を勉強しても、相手の人たちの言ってることが分からないことが多い。自分では分かるはずだと思っていても、実際には分からない。

学期末に学生にアンケートをすると、その中に「先生が言っていることが一部理解できなかった」といったコメントがあることにはあります。

東大生の英語力は非常にレベルの幅が広いんですね。帰国子女もいれば、受験英語は出来るものの実際に英語を口から出したことはなく、リスニングが苦手な人もいるんです。全員が、教員が言ってることを100%分かっていると我々も思っていない。それに、実際に英語を使おうとすると、最初から相手の言っていることが全部分かるわけではない。でも、文脈から言おうとしていることを想像したり、分からないことがあったら聞き返したり、そういう実際の場面を経験させたいというのが、このような形を取っている一つの目的です。

もうひとつ付け加えると、日本人が日本語を使って英語を教えますと、どうしても翻訳が多くなります。この英語は日本語ではこういう意味ですよ、ということですね。それが有効な場合もありますけれど、2つの言語、例えば日本語と英語に、一対一の関係があるわけではない。高校までの勉強の中では「こういう単語は日本語ではこういう意味だよ」というふうにみんな勉強しているんですが、実際には、言葉は文脈の中で意味を持つものですし、その文脈は言語によって違うし、ましてや一対一の関係があるわけではない。英語を、英語として理解させようと思っていますので、授業も英語でやっています。

でも、英語といっても、必ずしも「ネイティヴの英語」というわけではない。ネイティヴというのは、これまた明治時代の英語教育に近い発想なんですね。英語といったらまずイギリス、その次はアメリカ、と考えられていたんですけれど、いま理系の世界では、様々な国の人たちが英語を使っています。ですから、ALESSの教員にしても、必ずしもアメリカやイギリスの出身とは限らない。今までALESSの教員の中には、台湾出身とか、ポルトガル出身、フランス出身、日本出身の教員もいます。

プリント教材

ALESSには教科書のようなものが存在せず、教材は全てプリントの形で配布されます。これは、共通教材でもなければ、教員の完全なオリジナル教材でもなく、いわば「半分共通教材」です。これについては、ある意味で、私の教育に対するスタンスを反映していると思います。私個人として授業をしている時には、同じようなことを2回教えたくはないですね。何年も同じ文章を教えるんじゃなくて、毎年違う題材を選びます。一つの理由は、同じことを教えていると自分がつまらなくなるということ。でもそれは、個人の好みの問題ですね。

ここの(東京大学1・2年生の)英語の授業には2つのパターンがあります。英語Ⅰの場合は、しっかりした教材があって、全員がそれを共通で使っているわけですけれど、はっきり言って、学生たちからの評判は良くない。大人数授業だという問題はあります。能動的な授業ではないという問題もあるんですけれど、教員が自分の想像力を使って、それぞれの学生やクラスの特性に合わせて教材を変えるということは難しいから、授業への評価が低くなっているのだと私は思います。他の人は意見が違うかもしれませんが。それが一つある。

プリント教材

プリント教材の一例

他方、英語Ⅰ以外の授業は教員に任せられている。それはそれでいい面もあると思います。駒場の英語教育は、様々な分野の最前線で研究をなさっている教員によって支えられており、各教員が自分の専門や興味を活かした英語の授業を出来るというところに特徴があるんですが、ALESSの授業には「将来の研究者、英語による発信者を作る」という明確な目標がありますので、それが完全に教員に任せっぱなしだったら、プログラム全体での統一性がなくなってしまいます。ですから、ALESSが始まって以来、教材は教科書ではなくプリントの形にして、そのプリントを教員全体で共有しています。我々が内部で持っているwikiがあって、そのwikiに全てのプリントがアップロードされています。そして教員たちはそれを全部見て、他の教員が作ったものをダウンロードして、そのまま使ったり、使いやすくするため、また、新しいやり方を試すために改訂したりします。改訂したら、それもwikiにアップロードして、全員に共有します。そして、この建物(10号館)の4階のところ(編註:インタビュー行われたフロア)にALESSの教員11人の研究室があり、共有スペースで日々交流しています。授業についての話し合いもあって、毎週1,2回は会議もあります。学期始めと学期末にも教員の中でワークショップがあって、最近作った教材についての話し合いなど色々とやります。ですから、(教材や教授法は)完全に共通ではなく、完全に自由でもないのです。

ALESSの授業の「実験をして、論文を書き、それを口頭発表する」という流れは大体統一されています。そのお陰で、ALESSの授業はずいぶん良くなったと思います。2008年度(編註:ALESS開講初年度)の学生アンケートの結果は、はっきり言ってあまり良くなかった。最初の1年間は様々な問題があり、我々が十分に準備できなかったところもあります。一つは、授業の中でピア・レビューがありますよね。学生同士でお互いに書いたものを見て話し合うというものです。一年目、特に最初の学期は、ピア・レビューへの評価が非常に低かった。我々は、ピア・レビューの方法論、「どうやってやる」「どうやって友達に説明する」といったことをあまり深く考えていなかったんです。学生たちからのコメントには、ピア・レビューが何のためにあるのか分からない、どうしてこれをやっているんだ、先生からの添削が欲しい、なぜ自分が書いたものを他の学生が見ているのか、といったものが多かった。でも、我々の意図としては、学生同士でやることで、実際の研究の場面に近くなるということなんですね。どういうことかというと、例えば理系のジャーナルを見ると、一人が書いている論文はほとんどない。NatureとかScienceとかでは、二人でも少ない。五人の共著のものもあるし、十人、百人の名前が著者として並べられている論文もあります。ピア・レビューで他の人の文章を読むと、自分と大体同じ立場の人たちの文章を読むことになります。他の人も自分と同じような問題に取り組んでいるわけだから、そうした人たちの書いた文章を読むことで、自分も文章が上手くなる、というふうに思っています。

最初は学生たちの評価が低かったから、ピア・レビューのやり方をどうしようかと色々工夫しました。一年後、ビデオも作りました。12分くらいで、「ピア・レビューはこういうものですよ」という内容ですね。ピア・レビューだけじゃなくて、実験をどうするのかということもあるし、様々なところで、教員たちが話し合って教材を改良して、ずいぶん良くなりました。先学期の授業評価を読みますと、3年前と全然違うわけですよ。もちろん、全部が全部良い評価というわけではありませんが、「この授業の意味が良く分からない」といったコメントは随分少なくなりました。うれしいのは、「最初はきつかった。途中まできつかった。最後まできつかった。でも、非常に役に立ちました。楽しかった」というコメントです。私たちは、易しい授業にしているわけではないんです。割とプレッシャーをかける。時間も掛かるとは分かっているんですけれど、その達成感を感じてもらえれば、我々にとって一番うれしいですね。

学生へのサポート体制 ― KWSとALESS Lab

KWSとLabは別の経緯で設置されました。KWSは、ALESS云々の以前から作ろうと思っていたものです。ライティングセンターというもの、すなわち、大学生が、自分の書いた文章について一対一で人と相談するところは、60年代、70年代からアメリカで普及し始めて、今ではアメリカの大学の多くにライティングセンターがあると思います。その方法論を色々研究するんですね。日本の国内でも、早稲田大学には日本で一番進歩的なライティングセンターがあって、その他に、上智大学や大阪女学院など、何箇所かあります。東大でも、発信力、特に書く能力を養うには、ライティングセンターが良いのではないかということが、私が駒場に来る前から検討されてきました。2005年からパイロット授業をやりながら、大学院生が一対一で学生の相談役になるということを試してみたわけですよ。まだライティングセンターと呼べるものはなかったけれど、一応チュートリアルという方法論をやってみたんです。そして、ちょうどそのタイミングでALESSが始まるということになったので、KWSはALESSのためのものになりました。ですから、最初の目的とは逆だったことになります。我々の当初の目的は、ライティングセンターを作って、様々な授業の学生に対応することを念頭に置いていたんですが、ALESSを急にやり始め、学生へのサポートが必要になったので、じゃあライティングセンターを作りましょう、ということになったわけです。

論文集

受講生の論文の中から特に優良なものを抜粋した論文集が、各学期1冊ずつ発行されている。

ALESS Lab設置の経緯は、KWSとはまた違うのです。多分全世界で、英語の授業に、顕微鏡などが整備されているLabがあるのは、ここ以外にないと思います。ALESSでは、学生が自ら実験をやるということがひとつのポイントになっているのに、実験のサポートが当初は何もなかった。実験内容についてのサポートもなかったし、物資面でのサポートもなかった。ですから、それもピア・レビューと同じように、学生たちからの評価が低かった。教員たちも色々工夫して、実験の仕方を説明したり、どういう実験がいいのかをアドバイスしたりしました。それに、どのような実験が出来るのかという例として、過去の論文集も作りました。

昨年だったと思いますけれど、KWSで、温度計などの実験器具の貸し出しを始めたんです。その当時は、ここ(KWS)に来て器具を借りたんですけれど、実験できる場所までは用意されていませんでした。それでちょうど今年(編註:2011年)の1月か2月頃、学部の上の人たちに、「ALESSではこういう問題があるんだ」と説明したら、運よく、1号館に教室として使っていないスペースがあることが分かったんです。実は今のLabの部屋は、隣に変圧器か何かがあって音がうるさいので、教室としては使えない場所なんですね。そうして空いている教室があって、だからLabとして整備しましょう、ということになりました。震災の前後の大変な時期でしたけれど、部屋をきれいにして、4月に授業が始まる前に、Labが出来上がりました。そして今、特任助教の中嶋さんという方がLabを運営されていて、理系の大学院生もそこで働いています。

ライティングセンターの方法論については参考にできる例がありましたけれど、実験の相談をどのように行うかについては今でも開発途上ですね。中嶋さんを中心に考えています。でも、我々受講生の論文の中から特に優良なものを抜粋した論文集が、各学期1冊ずつ発行されている。としては非常にラッキーだと思っています。ALESSについて学部からの理解があって、大学の財政は非常に厳しい状況であるにも拘らず、Labが設置できたということは非常にうれしいですね。

ALESS Lab

ALESS Labの様子。実験台と実験器具の入った棚は壁際にあり、それに取り囲まれる形で配置された机では、実験に関する個別相談を大学院生のTAが受け付けている。

先学期(2011年度夏学期)、ALESS Labに対する初めてのアンケートの結果が出ました。Labを使って良かったという声も多いのもさることながら、Labを使っている人数がすごいんですよ。正確な数字は覚えていないんですけれど、先学期は延べ1000人以上がLabに来ました。でも、Labが混み過ぎているという問題があります。特にお昼の時間は非常に混んでいます。我々としても、どういう風に対応できるか、色々と考えています。

それから実験の内容ですね。我々が実験について求めているのは、あまり時間を掛けずに、でも創造力を使って、科学的な意義のある簡単な実験をやるということなんですよ。それについても、Labを中心に考えていくつもりです。実はちょうどいま、「どういう風に実験をデザインするか、工夫するか」ということについて、10分くらいのビデオを作ろうとしています。授業で見せたらもっとうまく行くのではないかと思います。

ALESSの今後

ALESSが始まって以来、文系の学生はどうなっているのかという疑問がありました。先ほど申し上げたように、特に急務だったのは理系の学生たちでした。でも、英語で発信することは理系の分野に限った話ではなく、また論理の通った文章を書く力は文系にも必要だと思っています。ですから、今はまだ確定ではありませんが、文系の学生にもALESSのような授業を行いたいと考えています。(2012年)4月からパイロット授業が本格的に始まって、可能だったら2013年の春から始めたいですね。これは仮の名前ですが、ALESA(Active Learning of English for Students of the Arts)と呼んでいます。なので今は、教材開発を行う教員の委員会でそれをやっているところですね。その時には、ALESSでの経験、ALESSの教員の知恵も借りて、授業を開発したいと思っています。ただ、予算面でも未確定のところがあるのですが……。

ALESSについては現在のところ、大きな改革は予定していませんが、それでも日々改良を加えていきます。

東大の英語教育を考える

駒場に限らず東大全体として考えますと、東大の英語教育の非常に大きな課題は、前期課程と後期課程に分かれているということだと思います。

我々は、駒場の英語部会という組織で、長年英語教育で頑張っているんですけれど、そこには二つの制約があります。ひとつは、単なる予算の問題。例えば英語?気任垢諭?今の英語?気楼譽?ラス60人位ですけれど、ALESSができる前は一クラス120人だったんですよ。20年近く前、英語?気?始まったのは、英語二列のような小規模の授業を作るためだった。英語?気任?120人にして、英語二列では15人位、場合によっては30人位と。でもそれはとりあえずの解決であって、理想を言えば、もっと少ない人数で、ということですので……。ですから、教員の数が足りない、教室の数が足りない、というのは大きな問題です。

もうひとつの問題は、駒場の英語教育は割と頑張っているのに、後期課程の英語教育がなかなか十分とはいえないということ。学部によっては少しやっているところもあるんですけれど、全くやってない学部もあります。1年生・2年生では英語の授業があるので、英語を勉強している人が多いんですけれど、3年生・4年生では全くやらない人が多いんですよ。外国語というのは、忘れるのが非常に速い。2年間やっていないと半分忘れてしまいます。ですから、ALESSについても「どうして1年生でやっているのか。これは4年生くらいでやればいいじゃないですか、あるいは修士課程でやればいいじゃないですか」という指摘をよく受けます。実際その通りです。ALESSのような授業は少しずつ、4年間かけてやっていった方がいい。半期だけでは全然足りない。我々もそう思っています。だけど、東大では、専門教育を2年間に圧縮しているわけだから、そこに英語を入れる余裕はあまりない。ですから、今のところ出来るのは1年生の半期の授業くらいですね。

でも大学としては、濱田総長をはじめとして、何とかして大学の国際化を進めたいという意識は強いんです。2012年の10月から「PEAK(Programs in English at Komaba)」という新しい授業が始まります。先週の金曜日(編註:2011年12月2日)に公開シンポジウムもあって、濱田総長もいらっしゃいました。PEAKの授業はすべて英語で行われます。とりあえず留学生が中心になりますけれど、日本人の学生たちも受講できますし、将来は、駒場で、英語・日本語どちらでも授業を受けられることが多くなると思います。英語「を」勉強するだけじゃなくて英語「で」勉強するチャンスが増えるということですね。

その他のことについても、私だけじゃなくて、それぞれの英語教育者が色々と考えているところです。まだ公表できる段階にはなっていませんが、一年後、一年半後、何かしら良くなるだろうと私は期待しています。

メッセージ

トム・ガリー先生

――在学中の東大生へ

まず、ALESSの目的ですね。英語で発信する力を付けるということがひとつ。それにもうひとつ、Critical Thinking、批判的に考える力を身につけてほしいということです。ALESSで実験をやるのもそこなんですね。全くのゼロからではないにしても、答えが自明ではないような疑問を持って、科学的に実験を設計して、その結果を分析する。そのような能力は、これからの皆さんの研究には非常に重要になると思います。これは受験勉強とは全然違うような勉強のやり方です。これはALESSに限ったことではなく、東大の様々な授業で、実用的な思考力を育てようとしていると思うんですよ。英語力、単語とか文法とかだけではなく、考える力を育てようとしています。それが一番大きいことだと思います。

もうひとつは、自分の進路についてまだ分からない人が多いと思う。特に一年生。それは東大のいいところだと思います。入学して、様々なことを勉強して、そして後期課程に進学する。でもどんな学部・学科に進んだとしても、英語が必要になります。それも、英語を読んで日本語で理解するんじゃなくて、英語で考えて英語で発信することが必要になります。研究者になるにしても、企業などで働くにしても、国際機関で働くにしても、NPOで働くにしても、国際的な場面で活躍するための下積みが必要です。それが考えてほしいことですね。

――東大の英語教育に興味をお持ちの方々へ

ひとつは、前から申し上げているALESSの授業内容のほかに、東大では英語教育の改革と改良を不断に頑張っているということをお伝えしたい。改革の時には、KWSの例にもあったように、他の研究・事例を見て学ぶこともありました。でも我々は、学生のニーズや特色、進路などを見ていますし、我々がここでオリジナルで開発した物もたくさんあります。真似というわけではないですが、他のやり方を参考にして、この東大で新しい教育を開発しています。我々は出来るだけ多くの人に、それを発信したいと思っています。

ALESSのウェブサイトももっと充実した内容にしたいと思っていますし、他の大学にお招きいただいてALESSについて講演などをすることもあります。ALESSの内容を紹介するパンフもありますし、国内だけではなく国外からも訪問者がいらして、例えばソウル国立大学とか北京大学とかの先生とお話ししてきました。我々がやっていることを、他の所でも参考にして、色々なところで応用していただければ非常にうれしく思います。

――東大を目指す受験生・高校生へ

ALESSに限ったことではありませんが、東大に入ったから勉強が終わったというわけではない。受験勉強は非常に大変だと思いますけれど、東大に入ってからは、それを基礎にした、もっと進んだ勉強が色々あります。その中に、ALESSのような英語教育もあるということですね。ですから、東大に入ってから楽しく勉強すること。たくさん勉強することもありますので、遊ぶということはあんまりない(笑)。でも、受験勉強とは違って、答えが分からないような勉強もあります。また、想像力が必要な勉強もあります。最先端の内容もありますから、それも楽しみにしていて下さい。

これもALESSに限りませんけれど、東大に入る時点で何をやりたいかというのは決めなくてもよい。入ってから様々なことを勉強して、様々な知識を触れて、自分の専門を選べばいいと思います。

取材後記

筆者自身も理科生の一人としてALESSを受講しましたが、今回の取材を通じ、その当時見えていなかった多くのことに気づかされました。当時お世話になった先生や、KWSのチューター方々には、改めて感謝申し上げたいと思います。また、この記事を読んで下さった方が、ALESSを含む様々な講義に対して新しい視点を持って下さったならば、これにまさる幸いはありません。

リンク

(編集:東京大学UTLife)