東京大学公式の情報サイト「東大ナビ(UTokyo navi)」は、本学の部局や研究所が開催する多彩なイベントの情報を集約し発信しています。


東大ナビでは二回にわたり、1月9日に駒場キャンパスで開かれたシンポジウム「アメリカLGBT活動の現在 IVLP東京報告会」についての特集をお送りしています。前回は主に講演の概要をご紹介しました。今回は、シンポジウムでの報告内容のうち、「学生」に関連するものをお送りします。また、シンポジウムでその報告を担当され、自ら当事者として活動されている東京大学経済学部の諸星航洋さんに詳しい内容やLGBTについての考えや想いを伺いました。

諸星さんは、LGBTに関するダイバーシティ・マネジメントの促進と定着を支援するwork with prideという団体で学生インターンとして活動され、その調査報告を今回のイベントで発表されました。性的マイノリティである学生が、就職活動、またその先の人生の中で何を軸に自分のキャリアを形成し、そして何を企業に求めていくのか、ということについてのアンケート報告は、現状の日本の性的マイノリティに関する問題の一面を浮き彫りにしています。学生にとって、「やりたい仕事を選ぶ」ことと、「LGBTフレンドリーな会社を選ぶ」こと、二つの要素のバランシングは非常に重要ですが、問題なのは、必ずしもその2つが一致しないことだ、というのがその主な内容です。当日は報告に対して多くの質問が集まり、この問題に対する関心の高さが伺えました。

諸星さんも、自身の就職活動の中で思い悩み希望の進路を切り替える経験をしています。

「当初は中学生のころからの憧れであった公務員を目指していましたが、外資系を含めた民間就活に切り替えることにしました。『結婚が当たり前という風潮のなかで、お手本となるような先輩・職員を見つけられず、自分なりの働き方を確立できないのではないかという不安に駆られた』というのも、大きな理由の一つです」。

また進路を切り替えた後も、自分にとっての最適の進路を選ぶ軸を考え続け、最終的には自分の納得する進路を選ぶことができたそうです。

「希望進路を転換したばかりのころは、『なにがなんでもLGBTフレンドリーな会社に行きたい!』というような感じでしたが、最終的には、『やりたい仕事を選ぶのは最も大切で、その仕事に快適に従事するには、極力不安材料を取り除いておく必要がある』というような考えに変化しました」。

昨今、多くの企業の採用ページには「障がいをお持ちの方へ」という項目が掲載されています。これが一つの社会運動の成果だとすれば、LGBTへの関心が高まっていることを受け、今後「性的マイノリティの方へ」という項目が掲載される可能性は高まります。しかしながら、イベントの中でも強調されていましたが、「多様性を認める」ことは、「普通ではない人を特別視する」ことを意味するわけではありません。諸星さんは、「多様性が尊重される社会」というのは、「『原則』の守備範囲が広く、『例外処置』をしなくてもよい社会」だと言います。

「大前提として必要なのは、『当事者の声に耳を傾けられる社会』だと思います。そのためには、マジョリティとマイノリティが対等に議論をする必要があります。というのも、マイノリティは、ともすればマジョリティの理屈に飲み込まれがちだからです」。

マイノリティをマイノリティとしてレッテル貼りするのではなく、その中での多様性、個性も尊重しながら、いかにマイノリティに優しい社会を作っていくのか。前回の記事にもありましたが、法律やトイレの問題などハード面での解決策がなくとも、家族や企業が寄り添い、打ち明けやすい環境を作るといったようなソフト面での解決を率先して進めていくこと、「窓口レベルでの対応」を進めることはその一つの方法です。
では、当事者ではない人が実感を持って具体的に理解・行動するには何が必要なのでしょうか?諸星さんは、なによりも「当事者の声に耳を傾けることと、その声を咀嚼するための想像力」が、その難しさを解決する第一歩だと言います。

「今回の調査にあたっても、自分以外のセクシュアリティに関して無勉強な部分が多いと痛感したため、性的マイノリティ全般に関することはもちろんのこと、働く女性の問題やトランスジェンダーに係る法制度の問題などについて、自分なりに色々と勉強したり当事者の声を読んだり聞いたりしてきたつもりです。知ることを通じて、想像力や感性を磨いていくのは、このような問題において大変重要だと考えています」。

性的マイノリティの問題に関わらず、社会問題においては当事者と非当事者との関係をいかに築いていくかが重要なポイントとなります。仮に親しい友人からカミングアウト(自身の性的マイノリティを告げること)を受けた時、戸惑いを隠せないこともあるかもしれません。しかし、どのように感じたとしても、否定しないことが何より重要だと諸星さんは言います。

「性的マイノリティ当事者がカミングアウトするとき、場合によっては、数か月にわたって綿密な探りを入れたうえで、『この人ならきっと大丈夫だ!』という勇気をもってカミングアウトします。笑い飛ばすなり涙を流すなりサラッと受け止めるなり、表面上の反応は様々あると思いますが、根底には『否定しない』という姿勢があってほしいというのが、個人的な希望です」。

自分と違う人に対してアレルギー的に否定するのではなく、「当事者の声に耳を傾けることと、その声を咀嚼するための想像力を持つ」こと。それを実現するために、「声を上げられる人が根気強く声を上げることで、当事者意識を触発していく」こと。その結果、マイノリティに優しい、本当の意味での多様な社会が実現されるはず。今回のイベントと諸星さんのお話を通して、少しずつですが、その胎動を感じられたような気がしました。諸星さん、ありがとうございました。

※東大ナビでは、今後も様々なイベント・活動に参加し、そのレポートをお届けしていく予定です。

参考:
Work With Pride
https://www.facebook.com/workwithprideinjapan
「性的マイノリティである学生が職場に求める環境調査」調査結果報告
https://ibm.box.com/wwp2015StudentVoice

本イベントの詳細は以下をご覧ください。
http://komex-fye.c.u-tokyo.ac.jp/blog/archives/690
http://www.todainavi.jp/archive/events/20151221_1/